第88話
そこでは五歳くらいの女の子が目からボロボロと涙を流しながら大きな口を開けて泣いていた。
「ちーちゃん、静かにして?」
「やぁだぁーー!!」
「お願い、もうすぐ着くから」
「いやぁーーーッ!!」
隣にいたお母さんはすごく焦っていた。
「じゃあお菓子食べる!?飴食べよっか!?チョコも」
「いやーーーッ!!!」
「うっせぇな…」
どこからかそんな声が聞こえた。
それでも泣き続ける子どもに、お母さんは周囲の人たちに何度も頭を下げながら「すみません、すみません、」と謝っていた。
大変そう…
昔見たあの写真のお母さんはまだ赤ちゃんだった私をとても大事そうに抱っこしていたけれど、いつからこんな風になってしまったんだろう。
あの女の子のお母さんだってきっと思ってるよ。
うるさい、
黙れ、
好きで母親なんかになったんじゃない……とか。
「そういえばさ、」
その母娘をぼんやりと見つめていた私に、突然ハルタの声が落ちてきた。
「水口にあげるもの、何になったか知ってる?」
「ううん、知らない。何になったの?」
私は顔の向きを正面に戻してハルタの言葉に答えた。
「オムツケーキとアルバムと残りは商品券にするらしい」
「オムツケーキ?」
「オムツを束ねてケーキに見立てたやつだって。最近流行ってるらしい」
「へぇ…」
水口幸せだろうな。
生徒にそんなもの贈られるなんてさ。嬉しすぎて泣いちゃうんじゃない?アイツすぐ泣くし。
愛されてるって思うんだろうな。
それってどんな感じなんだろう。
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