第83話
「…ありがとうね」
シャツのボタンをゆっくり下から留め直していると、戸の向こうからお母さんの声が聞こえて私はボタンを留める手を止めてその声に耳をすませた。
「今度はお姉さんが相手してくださいよ。俺だって金ないんすから。無駄打ちに何万も払いたくないっすよ」
“無駄打ち”…
しっかりイッたくせに何が無駄打ちだよ…
「うん。今度は私としようね。また連絡してよ」
私はお母さんのその声に、静かにまたボタンを留める手を動かし始めた。
玄関の閉まる音がした後に隣の部屋の戸が閉まる音が聞こえて、私は枯れたスイセンをペットボトルごと持って部屋を出た。
お母さんの部屋の戸は予想通り閉まっていて、その部屋の前には私がさっき脱いだブレザーとリボンが落ちていた。
私は落ちていたブレザーを羽織ると、リボンも拾い上げてポケットに入れた。
これくらいどうってことはない。
別に初めてじゃないし。
私はそのまま家を出ると、アパートのゴミ捨て場にスイセンをペットボトルごと捨てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます