第71話

「あのさ、掲示板には“二十八歳”って書かれてたんだけど…」



お母さん、四歳サバ読んでる…


私はそのよく分からない見栄にちょっとだけ笑いそうになった。



「俺の相手って…」


「私ではありません」


「あっ、そうなの?なんだ、良かった…」



“良かった”って失礼な…



…でも、そうなんだ…


この人、“二十八歳”につられて来たんだ。


年上好き?珍しいタイプだな。


それならお母さんが四歳サバを読んだ意味って特になかった気もするけど。



「いやぁ、知り合いが迎えに行くからって言われてたからイカつい男とかが来たらどうしようかと思ってたんだ。そしたらまさか女子高生なんて、…本当びっくりだよ」



“知り合い”…


そっか。


娘なんて言ったら“二十八歳”がおかしくなっちゃうもんね。


さすがに十二の時に産みましたってのはちょっとありえないよね。



「その二十八歳の人と君はどういう関係なの?」



何の興味があるのか、その男子校生は楽しそうに私にまた声をかけて来た。


“あそこのクレープ屋さんは美味しいの?”みたいな軽いノリで。



「…知り合いです」



私がお母さんの決めた設定に合わせるようにそう言ってまた家の方へ歩き始めると、その彼は特に疑う様子もなく「へぇ」と言ってまた私について来た。


家に着くと、「ここです」と言って私は玄関を開けて家に入った。


すぐにその彼も私に続いて玄関に入ってきた。




「約束の人、来たよ」


「……」



お母さんはさっきと同じように自分の部屋で煙草片手に座って携帯を触っていた。


私が家を出てから二十分くらい経っているはずなのに、さっきと何も変わってない。



銅像かよ…

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