第70話

「あの、」


私がそう声をかけると、その彼はすぐにパッと手元の携帯から私へ視線を移した。



「約束の方ですか?」



私はいつもそう声をかける。


そう言われた男はすぐに察してくれる。


人違いをしたことは今のところない。


この彼の反応もまた、似たようなものだった。



「…あぁ、うん」


「家まで案内します」



私って一体何者なんだろう。



「あぁ、うん」



女子高生が来たことに少し驚きつつも、その彼はすぐに私について来た。



私はあの花屋の前を通らないように少しだけ遠回りをしてから家に向かって歩いた。


あの店の花に、今の私の顔を見られたくはない。



「…ねぇねぇ、」



路地裏に入ってすぐ、後ろからその彼に声をかけられた。



「え?」



迎えに行った男に声をかけられるなんて初めてで、私は少し驚いて足を止めた。


振り返ると、彼は神妙な面持ちで私を見ていた。



「何ですか?」


「いや、あの、確認なんだけど…」



その彼はそう言いながらポリポリと右手の指で頬を優しくかいた。

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