第69話

家に帰ると、お母さんの部屋の戸が開いていた。



「ただいま」


「……」



お母さんは布団の上で煙草を吸いながら携帯を触っていて、私の方をチラッと見るとまたすぐに携帯に視線を戻した。


私はそんなお母さんを気にもせず、自分の部屋に入ろうとその前を素通りした。



でも、



「エリカ、」



お母さんに名前を呼ばれて、私はお母さんの部屋をすぐに覗いた。


お母さんのその声は割と落ち着いていた。



「なに?」


「駅に迎えに行ってきてくんない?…十八の男」


「うん、分かった」



私は自分の部屋の入ってすぐの所に鞄を置くと、制服のまま手ぶらで玄関の方へ向かって家を出た。



十八歳か…


若いな。


高三…?


どうかうちの高校の生徒ではありませんように。



そう願いながら駅へ行くと、多くの人が行き交う中で柱のところに立って携帯を触る一人の高校生がいた。


あれかな…?


その人は近くの男子校の制服を着ていて、私は自分と違う高校だったことにひどく安心した。



とりあえず声かけてみるか…



私はすぐにその彼のもとへ歩いて行った。

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