第68話
「この前のスイセンはどうなった?長く持った?」
「あー…いや、やっぱり三日で枯れちゃった」
「そっか」
お兄さんの反応は案外普通だった。
もっと悲しそうな顔すると思ったんだけどな。
「ごめん、せっかくお兄さんがお金払ってくれてペットボトルまで用意してくれたのに」
「いやいや!前にも言ったじゃん。スイセンは花持ち期間が短いんだよ。そもそも切り花はどうしても長持ちさせるには限界があるから、三日で枯れても何もおかしくないよ」
「私のせいじゃないの?」
「違う、違う」
嘘じゃないのか、お兄さんはすぐに否定すると笑って私を見ていた。
茎を切り離せばすぐに死んじゃうなんて、花ってすごく儚いんだな…
「長く楽しみたいなら、鉢植えとかで何か育ててみるといいよ」
「えー、ハードル高いよ」
「そんなことないよ。育てやすい花はいくらでもあるから」
「…考えとく」
…とは言いつつも、私の中で答えなんて決まっていた。
だってあのスイセンが早く枯れてしまったのは、やっぱり少なからずお母さんのあの声を聞かせてしまったことにも問題があると思うんだよね。
根拠は全くないけど。
これ以上綺麗な花があの声の犠牲になるのは可哀想だよ。
あれを聞くのはお母さんを抱く男と私だけで十分。
「俺も何がいいか考えてみるよ」
「ありがとう。じゃあ帰るね」
「あ、うん。気をつけて」
私はお兄さんに軽く手を振るとお店をあとにした。
私はこの日、お母さんが私の帰りを今か今かと待っているなんて考えもしなかった。
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