第59話

その日、学年主任がうちを訪ねてきたのは夕方の四時半頃だった。



今日は男は来ていない。


良かった…



インターホンが鳴ったってお母さんは部屋から出ようともしないから、私はすぐに玄関に行ってドアスコープを確認した。



そこには予想通り学年主任が相変わらず高そうなスーツを着て立っていた。



———…ガチャ…



「あ、こんばんは!」


「…こんばんは」



以前の水口の時みたいに、またお母さんに裸で出てこられては困る。


私は前と同じように少しだけドアを開けて顔だけを出した。



「お母さん、いらっしゃるかな?」


「はい…」


「うん、じゃあとりあえず玄関入れてくれるかな?」



学年主任はそう言いながらも、水口と同じように中の様子を覗き込もうと必死だった。


「……」


面倒になった私は、何も言わずにすんなりと学年主任を玄関の中に入れた。



学年主任の茶色の革靴は今日も光っていた。


相変わらず高そうな靴履いてんな…




「えっとー…お母さんは…」


「…待っててください、呼んできます」



私はそう言って玄関に学年主任を残したまま、お母さんの部屋の方へ行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る