第58話

私はお兄さんに言われた通り、家に帰るとすぐに買ってもらったペットボトルを空にしてスイセンを水に挿した。


ペットボトルはお茶のラベルもそのままだったから見た目はかなり不格好ではあったけれど、花が一輪あるだけで私の何もない部屋も少しはマシに思えた。



ただ、この花にあのお母さんの甘くて下品な声を聞かせるのはすごく可哀想だった。


私は耳を塞げるけれど、この子はどうしようもない。



そのせいかな。



やっぱりスイセンも長くは持たなかった。



やっぱり私はあの時お兄さんに返すべきだったのかもしれない。



スイセンはペットボトルに刺されたまま茎の部分から萎れてくたっとなってしまったけれど、私はそれを捨てる気にもなれなくてそのまま部屋の隅に飾っておいた。



それから数日後、私は学年主任に「今日の放課後お家にお伺いするね」と言われた。



…あ、忘れてた…



ここまでくればもう私にだってどうしようもない。


なるようにしかならない。


諦め半分で、私は「はい」と返事をした。




とりあえず交尾合戦の最中ではありませんように…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る