第52話
「ある美少年がね、いろんな相手から言い寄られたけどいつも冷たい態度をとってたんだ。森の精霊もその美少年を好きになったんだけど相手にしてもらえなくて、屈辱とか恋の悲しみとかから痩せ衰えちゃって、ついには肉体をなくして声だけの存在になったんだって」
また変なスイッチ入ってる…
でも、私はこの店に立ち寄っている時間の中でもこの部分が一番楽しくてたまらない。
「うんうんっ!」
いつの間にか始まったお兄さんのお花トークに、気づけば私は全身を耳にするような勢いで食いついていた。
そんな私にお兄さんも気分が乗ってくるのか、毎回毎回流暢にペラペラと止まることなく話し始める。
「それに怒った復讐の女神がその美少年に呪いをかけたんだ。それによってその美少年は水面に映る自分の姿に恋をするんだよ。でも水面に映る自分は当然その想いに応えることはないでしょ?それでその美少年はその恋の苦しみで憔悴して死んじゃうんだ。それでその美少年の体は水辺で俯きがちに咲くスイセンに変わったんだ。だからスイセンは水辺であたかも自分の姿を覗き込むかのように咲くって言われてるんだよ」
「へぇ…それでちょっと切ないんだ…」
私はそう言いながら思わずスイセンを触ろうとしてしまって、伸ばしたその手をすんでのところで咄嗟に引っ込めた。
危ない、また触るところだった…
急いで手を引っ込めた私を見ていたお兄さんは、私が触ろうとしたスイセンを一本引き抜くと私に差し出した。
「触っていいよ」
「え?でも痛むんでしょ?」
「うん、でもこれはあげるから」
「え!?いいよ、そんなの!!」
私は差し出されたスイセンを受け取らずに、両掌をお兄さんに向けてそれを拒否した。
「いいよ、お金はちゃんと俺が払っとくから」
「いや、でも…」
「よく来てくれるお礼。店先で花を眺められるのって、案外集客効果あるんだよ?」
お兄さんはそう言うと、持っていた茎のところを私の手に持たせた。
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