第51話

「ううん、いい。中入ると種類いっぱいあって目移りしそうだし」


適当に見るだけってのはなんだか勿体無い気もするし。


それなら一つの花をじっくり見ていたい。



「でも寒くない?」



フード付きのパーカーだけで腕まくりをするお兄さんの方がよっぽど寒そうだけど。



「平気」


「そっか」



私はまた目の前の花に視線を戻した。



「なんかこの花、切なそうだね」



その花は首を垂れるようにして咲いていて、なんだかみんな俯いているみたいだった。



「よく分かったね」


「え?」


「これ、スイセンだよ。聞いたことはあるでしょ?」


「わかんない…スイセンは切ないの?」


「黄色いスイセンの花言葉は“もう一度愛してほしい”だから」


「へぇ…」



“もう一度愛してほしい”か…


確かに“もう一度”ってところがすごく切ない。



「スイセン全般の花言葉は“うぬぼれ”とか“自己愛”なんだけどね」


「えっ…」


私は思いっきり眉間にシワを寄せた。



「なにそれ?自分に酔ってたからフラれたって感じ?」



「あぁ、うん、そうそう!」



お兄さんは楽しそうに笑っていた。

その笑顔はまるで子どもみたいだった。


この人、何歳なんだろう…

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