第50話

「もっと早く来るつもりだったのに、先生達に足止め食らったんだよね」


「先生“達”って…一体何やらかしたんだよ」


お兄さんは楽しそうに笑った。



知らないんだ、あの噂…



そりゃそうか。


お兄さんは若そうだけど私よりは絶対大人だし。


たかだか一人の女子高生のくだらない噂なんて耳にも入らないよね。


とは言っても、私だってこのお兄さんのことは何も知らない。


何歳なのかも知らないし、名前なんて気になったこともない。


ただ分かるのは花にやたら詳しいってことと、会うたびにお兄さんからはいい匂いがするってことくらい。



「もう外にあるやつ全部店の中にしまうの?」


「まぁそろそろだね」


もう時間切れか…



水口のせいだ。



私の日常の中の唯一の楽しみを奪うなんて、どこまで私の邪魔をすれば気が済むのか。



「でも今日はもう俺しかいないから、ゆっくり見てっていいよ。コイツらもギリギリまで出しとくから」


そう言ってお兄さんは店先の花達をぐるっと指差した。


「マジ!?ありがとう…!」


「なんなら中も見て行く?いつも外で見るだけでしょ?」


お兄さんがそう言って指を差した店内を見てみれば、狭い店内には外から見ても分かるくらいにいろんな花が所狭しと並んでいた。

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