第49話
そういえばあの時帰り際にお兄さんは「一週間から十日は持つよ」と言ってくれたけれど、結局あのガーベラは三日もしないうちに枯れちゃったな…
それから私は何となくここに立ち寄る習慣がついた。
もちろん毎日ではないけれど、花を見つめたくなったら店先で一人しゃがみ込む。
いつも買わずに見るだけでいることを注意されたことはないけれど、きっと他の店員も私の顔は覚えてしまっただろう。
このお兄さんはいたり、いなかったり。
でも、いる時はこうやって少しだけ私の話し相手をしてくれる。
相変わらずこのお兄さんはたまに変なスイッチが入ってこっちの反応そっちのけで花の知識を延々話し出すことがあるけれど、それが私には何だか楽しかった。
そしてやっぱりお兄さんはすごくいい匂いがした。
花屋で働くだけでこんなにいい匂いになるのかな…
お兄さんから聞くその話は相変わらずマニアックで情報量が多くて、私はその内容の十分の一も頭には残らなかった。
同じ花の話を聞いたこともあるから、きっとお兄さんは何度も同じ説明を私にしていると思う。
でも話すこと自体が楽しいのか、お兄さんはいつも私に初めて話すかのようなテンションで話をしてくれた。
———…これが今の私の、唯一の楽しみだ。
「もうすぐ閉店?」
「あー…そうだね…」
そう言いながらお兄さんは左腕の腕時計を確認すると「あと三十分」と言葉を付け足した。
…ってことは今は六時半か。
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