第48話

ゆっくり振り返ると、そのお兄さんは私に背を向けたまま花の方を見ていた。



「…っ、ねぇっ!」



「…え?」



お兄さんはしゃがんだまま、ゆっくりこちらを振り返った。



「その花、何て言ったっけ!?」


「…あぁ、ガーベラだよ」


「すっごく可愛い…」



私がそう言うと、お兄さんは笑顔で立ち上がって体を完全にこちらに向けた。


「ガーベラって色だけじゃなくて咲き方もたくさん種類があるんだ。ぱっと見は同じ花とは思えないものもある」


「そうなんだ…」


「色はここにある赤、ピンク、オレンジ、黄色、白、…それ以外にも紫とか緑とか、人工的なものなら青とか虹色まである」


「……」


「花言葉もそれぞれ違っててね、赤は“神秘”とか“チャレンジ”、ピンクは“熱愛”とか“思いやり”、黄色は“究極美”とか“究極の愛”、それから白は———…」



あれ…


なんかお兄さん…


変なスイッチ入っちゃった…?



「———……でも緑や紫にはまだ花言葉がないんだ」



「オレンジ…」


私がそう呟くと、


「うん?」


お兄さんは優しく私に聞き返した。



「今、オレンジの花言葉だけ言わなかった」


「え?あ、そうだった?オレンジは“我慢強さ”とか“忍耐強さ”とかだよ」



“我慢強さ”…



それからもお兄さんはダラダラとガーベラについての知識をひたすら私に話し続けた。


でもお兄さんの話はマニアックで情報量が多過ぎて、私の頭にはほとんど何も残らなかった。



気付けば私はお兄さんのところまで戻っていて、


「これ、一本ください」


オレンジのガーベラを一本引き抜いてお兄さんに差し出していた。

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