第47話

「汚い手で触ってごめんなさい」



こんな…


汚い手で…



「いやいや、大丈夫だよ。…あ、いや、本当は良くないんだけどね?」



そりゃそうだ。


そのためにセロファンで一本一本花びらを包んであるんだもんね…



「普通は買い取りとかになるけど、今回は見逃してあげる。…って言っても指先が一瞬触れた程度だしね。それくらいで買い取れなんて言わないよ」



お兄さんの話し方はすごく優しくて、立ち上がった私は思わずまたそこにゆっくりとしゃがみ込んだ。



「触るとどうなるの…?」


「ん?…人の体温が伝わって傷むんだよ」


「そうなんだ…」


「花びらの痛みはその時すぐには出なくても、翌日にはしっかり花びらにシミみたいな跡になって出てくるから」



シミ…



あぁ、そうだ。



私、帰らなきゃ。



いろんな男のシミのついた布団のあるあの部屋で、今も誰かが私の帰りを待っているはずだ。



私は慌てて立ち上がった。



「すみません、私帰りますっ」


「え?あぁ、うん!気をつけてね」



私は軽く頭を下げるとその場を離れた。



でも、数メートル歩いて、私はまた足を止めた。

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