第45話

それからの私は気付けば無意識に小走りをしていた。



楽しみならあるよ、ハルタ。



唯一私の心安らぐ時間。



電車を降りて少し歩いた帰り道、路地裏に入る直前にあるこの花屋。



外にはいないか…


今日は学校を出るのが遅くなっちゃったからな…



でも良かった。


まだ外に花は並んである。



きっともう今は六時半を過ぎた。



でも、間に合って良かった。



私は店先に並んだ花に近付くと、ゆっくりしゃがんで目の前の花を見つめた。


その瞬間、店の方から足音が聞こえた。



「いらっしゃい」



私は花の前にしゃがんだまま、その人を見上げた。



「今日はもう来ないのかと思った」



優しく笑うこの人は、花屋にしては珍しい男の店員だった。



「学校出るの遅くなっちゃって」


「女子高生は忙しいね」


その店員はそう言いながら、私のそばまで来ると目線を合わせるように隣にしゃがんだ。

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