第5話

男は口元をニヤつかせたまま、カチャカチャとベルトを鳴らしながら隣で待つお母さんの元へと消えていった。







———…今日も始まる。




雌豚と雄豚の交尾合戦が。



前はお母さんの部屋の戸だってしっかり閉められていたはずなのに、いつから開けっ放しで行為に及ぶようになったんだろう。



「……んっ…」




少し漏れてきた声に、私は自分の部屋の戸をゆっくりと閉めた。


邪魔はしないように、ゆっくり、そっと。




そのうちもっと声が大きくなって、微かな振動がこの部屋にも伝わってくるだろう。




私はそれが伝わってくる前に、数日前に百均で買った耳栓をして布団に潜った。





「……あぁっ……んっ…はぁっ…」




だめだ。


百均の耳栓、使えない。



私は耳栓の上から両手で両耳を覆った。


それでも微かに聞こえてくるお母さんの艶っぽい女の声に、頭の中がぐちゃぐちゃになるような感覚になった。


でも、私にはとっておきの方法があるから大丈夫。




「あーーーー………」




布団の中で両耳を塞いで何でもいいから言葉を発すれば、自分の声が耳の奥で響いてとうとう隣の部屋の声は聞こえなくなった。



どれくらいそうしてたんだろう。




「あーーーー……」




息が切れればまた深く息を吸って、ひたすら私は言葉を発し続けた。

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