第4話

とは言っても、ここまでは私の何となくの憶測に過ぎない。



でもきっと半分は当たっている。



昔お母さんが、夜中に自分の部屋で何かを静かに見つめていた。


それが何なのかがどうしても気になった私は、お母さんが出かけた隙にお母さんの部屋をくまなく探し回った。


で、私はあるものを箪笥の奥から見つけた。



それは白い封筒だった。


その真っ白な封筒には切手も宛名も書かれていなくて、中には一言、



『好きな人ができた。ごめん』



大人の少し荒っぽい字だった。



それと一緒に写真も入っていた。


そこにはその時よりもまた随分と若い頃のお母さんが、私と思われる赤ちゃんを大事そうに抱っこしていて、その隣には三十代後半くらいの男性が寄り添うように立っていた。


きっとこのおじさんが私のお父さんだ…




それを見た時、私は小学五年生だった。






…死ねば良かったのに。






何でしぶとく生きることを選んだかなー…






十二月に入ったばかりの今日、



朝から降り続いていた雨は昼過ぎに止んで、西から押し寄せる冷たい空気の雲が空全体を薄暗く覆っていた。



今にもまた雨が降り出しそう…



自分の部屋で何となくそんなことを考えながらボーッとしていると、ガチャンッと玄関が開く音が聞こえた。



ドンッ、ドンッ、ドンッ、



自分の家でもないのに容赦なく入ってきたその人は、まずは私の部屋の方に顔を出した。


部屋の戸を閉めておけば良かった…



「よぉ、エリカ、」


「……」




気安く人の名前を呼ぶなよ、クソ豚野郎。



「ちょっと!早くこっちきてよ!」



隣の部屋のお母さんがその男にそう声をかけると、男は一瞬そちらに目をやったかと思うとニヤニヤしながらもう一度私を見た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る