第89話

私もすぐにソファーに横になった。


このソファーがベッドに向かい合うように置かれているせいで、私は少し離れたところにあるナツメの背中を見つめながら寝る形となった。






「———…ナツメ?」


「……」


「もう寝た?」


「……」


私も大人しく寝ればいいものを…


きっと私は今すごく余計なことをしているとは思うのだけれど、やっぱりその背中が寂しそうに見えて仕方ない。


きっと夜で絶妙に入ってくるこの月明かりのせいだ。



「…いつからここに住んでるの?」


「……」


「ずっと一人でいたの?」


「……」


「ベッドのそばまで靴履いて入るって、なんか外国みたいだね」


「……」


「…って私日本から出たこと一度もないんだけどさ」


「……」


根拠なんて何もないけれど、ナツメはまだ起きている気がした。


だってそもそもまだ電気を消して二、三分くらいしか経ってないし。



「…ナツメは?海外とか行ったことある?」


「……」


「そういえば海外の方がたぶんタトゥーって当たり前だよね?…あれ?タトゥーと刺青って何がどう違うんだっけ?」


「……」


「和柄かそうじゃないかって感じ?ん?でもナツメのあの写真って和柄は無かったよね?」


「……」


そろそろ黙れって怒られるかな…



「…てか私って我ながら本当よく喋るよね、あはは。ごめんね、もう寝」


「同じだよ」


突然言葉が返ってきたことに驚いた私は、ナツメの背中を見つめながら思わず頭を上げて「えっ?」と言った。



「タトゥーも刺青も同じ。英語か日本語かの違い」


「あー、そうなんだ!ルームウェアと部屋着的な?」


「まぁそうだな」


「スターと星とか?」


「だからそうだって」


「ランチとお昼ご飯的な?」


「……」


「あとはー…あ、ねぇ、これどっちが先に尽きるか勝負しようか」


「なんだよ、それ。勝手にやってろバカ」


そう言ったナツメの背中は少し揺れた。




その声の感じからして、たぶんナツメは今少し笑ったんだと思う。



さっき私のした“いつからここにいるのか”という質問は結局流れてしまったけれど、それは流れたというよりは流されたと言った方が近かったように思う。


きっとナツメはわざと無視したんだろうから。

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