第87話
「ちょっ…うるさいって…」
「起きろ」
「うん、起きたよ、起きたから…」
そう言いながらもカウンターの上で机に突っ伏したまま頭を上げない私に、ナツメの依然怒ったような声が届いた。
「お前ここで何やってんだよ」
その言葉にゆっくり頭を上げると、目の前には想像通り少し怒った顔のナツメがいた。
その髪は濡れていて肩にはタオルがかけられていた。
「え…もう朝?」
「バカ」
その言葉はあまりにも不躾だったけれど、私の質問をしっかりと否定していた。
「じゃあ何時…?」
「一時くらいだ」
「えー…まだ全然寝られるじゃん…」
私がそう言ってまたテーブルに乗せていた両腕に頭を乗せようとすると、直前でナツメの手が滑り込んできて私の頭は腕にたどり着けなかった。
寝るなと言いたいにしても、これはどうなんだろう。
人の、しかも一応女である私の顔面を、ナツメの手は遠慮もなく覆っていた。
「…何すんの」
「だからお前ここで何してんだって」
「えー、もう忘れたのー?ここに置いてくれるって言ったじゃんー」
私がもう一度しっかり体を起こしてナツメを見れば、まだナツメの髪からはぽたぽたと水が滴っていた。
今は服を着てるのに、なんだかそれだけでもこの人はセクシーだな…
なんか目ぇ覚めたかも。
「だからって座って寝るとかバカだろ」
「うん…でもよくよく考えたらさ、今床に寝転がったらせっかくシャワーを浴びて綺麗になった意味がなくなっちゃうかなって。それに床って痛そうだし」
俯きながら肩にかけたタオルで頭を激しく拭いていたナツメは、こちらを見ることなく「こっちの部屋に来い」と言って奥の部屋のドアを開けた。
「えっ、いいの!?」
私が驚いた声を出すと、ナツメはドアノブを掴んだまますぐにこちらを振り返った。
「さっきも言ったろ。俺店の入り口に鍵とかかけねぇから。それでもこっちで寝たいって言うなら好きにしろよ」
あっ、そうだった…!!
「行くっ…!」
私は勢いよく椅子から立ち上がると、カウンターの中に入ってナツメの元へと駆け寄った。
「余計なことはすんなよ?」
「余計なことって例えば?」
「それを聞くことがもう余計なことだっつうんだよ」
そう言いながらも中途半端に開けていたドアをしっかりと開けたナツメは、あとから私が入ることをちゃんと考えた上でそのドアを開けたまま部屋の中に入って行った。
だから私も、そのあとを追うようにその部屋に入った。
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