第81話

「…うん、わかった」


「いいか?女もだぞ?」


「わかったってば」



なんとなく、それに対して“どうして?”とは聞けなかった。



ここに置いてもらうなら軽い店の手伝いくらいはしようかと思っていたけれど、口をきくなとなればそれもおそらく無理だろうな。


まぁ何もしなくていいなら私は助かるけど。




「お前言ったよな?」


「え?」


「雑用とかなんでもするって」


「あ、うん!」


「なら俺の言うことはちゃんと聞けよ」



それは新たな条件の追加ではなく、今言われたことへの念押しのようなものだった。



その言葉は一見とても横暴で偉そうなものなのに、その言い方はとても優しかった。


だから、この人はもしかすると私を心配して今の条件をつけたのかもしれないと思えた。



考えてみればこの人が彫師ならここに来る人はきっとガラの悪い人が多いのだろう。


思いっきり偏見だけど、そんなのとわざわざ関わりたいとは思わない。


それが女でもダメな理由はよく分からないけれど、それはまぁ単純に私が仕事の邪魔になるからだろう。



「わかった!」


「あとあそこにトイレとシャワーがある」


そう言ってその人はカウンター内のこの人の部屋と思われる場所の右隣の扉を指差した。


あんな扉あったんだ…


そう思いながらその人の部屋の左隣を見てみると、そちらにも一つ扉があった。


薄暗いから全然気付かなかったな…



「ここに風呂はねぇ」


「シャワーは使ってもいいってこと?」


「好きにしろ」


「やった!」


シャワーが浴びられるなら十分だ。


これで銭湯代が浮く。


私が思わず両手でガッツポーズをして笑うと、その人はやれやれといった感じでため息を吐いていた。




「ちなみにそっちの部屋は何?」


私がその人の部屋の左隣の扉を指差すと、その人はスッと立ち上がってそこの扉を開けると中の電気をつけた。

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