第66話
「そんなに好きだったのか?そいつのこと」
「そりゃあ好きだったよ!この人と結婚するんだろうなって当たり前に思ってたし、子供は二人がいいなぁとか休みの日はお弁当持って公園行こうかなぁとか…あと私達基本移動は自転車だったからさ、子どもがある程度大きくなったら四人でサイクリングとかしたいなぁとか」
「…… 」
口に出してみて思ったけれど、たしかに私の想像する未来はマコちゃんの言う通り私が勝手に決めた未来でしかなかった。
“こんなことしたいね”とか“あんなことしたいね”とか、マコちゃんと話したことなかったな…
…でもやっぱりそれとホノカは全く関係ない。
「なのに私の友達と…」
「……」
「プリンだってさぁ!!」
私はそう言って、さっき注文したプリンのカップを持ち上げてカンッ!と机に勢いよく置いた。
「“そこまで好きじゃない”ってなんだよ、そういうことは早く言えよ!!てか美味しいと思ったなら別に良くない!?黙って食えよ!!“他と大差ない”とか“特別好きなわけじゃない”とかわざわざ言わなくていいっつうの!!」
「……」
「しかも私の仕事がただのバイトで何が悪いんだよ!!“カヤは頑張ってると思うよ”って…いやいや、お前マジで何様!?背負うつもりないくせに人の仕事に口出してんじゃねぇよ!!!」
「……」
気付けば周りも気にせず大きな声で言いたい放題なことをベラベラと言い倒した私に、その人は何も言わずじっと私を見ていた。
それからその向こうにいる他のお客さんからも視線を感じた。
でも、私はまだ言い足りなかった。
「“そんな将来頼んでない”って…あぁ、そうだよ、頼まれてないよ!!私が勝手に妄想して決めちゃってたことだよ!!悪い!?」
「…おい、」
「でもさ、そりゃそうじゃん!!だって私二十歳からここまでをマコちゃんに捧げたんだよ!?女の二十代をなんだと思ってんの!?」
「おい、」
「二十六っていうこんな中途半端な時に捨てられてさ、私にこれからどうしろって」
「おいっ…!!」
少し大きな声で言葉を遮られたことに、私はやっと話すのをやめてその人を見た。
その声からして怒っているのかと思った私だったけれど、その人の顔は意外にも怒ってはいなかった。
「…何も泣くことねぇだろ」
「…泣いてないよ」
「今から泣くくせに」
そう言われてじんわりと浮かんできた涙に、私は「もうっ、そういうこと言うからっ…!!」と言いながら誤魔化すように目の前の牛丼をまた口へ運んだ。
私の目に薄らと浮かんだ涙は、頬を伝うことなく引っ込んだ。
きっともう私はマコちゃんを過去にし始めているのだろう。
「で?さっきの男がそれ?」
「え?」
「だからさっきタクシーでどっか行った男」
「いや、違うよ!マコちゃんもっと若いもん。私さっきちょこっとだけガールズバーで働いたんだけど、」
私が当たり前のようにそう言うと、その人はブッと吹き出した。
「…え、なに」
「お前その格好で行ったのか!?ある意味すげぇな」
「うっさい!!んで十五分で限界来て帰らせてもらったんだけど、」
私のその言葉に男がフンと小さく鼻で笑うのが分かったけれど、私はもうそれを気にすることなく話を続けた。
「さっきの人は私のその最初で最後のお客さん。ワケアリなら一晩お前を買ってやるって」
「あぁ、それでお前連れてどっか行こうとしてたのな」
「なんかさ、夜ってそういう人多くない?飢えてるっていうかなんていうか」
「だから女は一人で来るなって言ったろ」
私の話にその人は特別驚いた反応はしていなかったから、あのタイミングでこの人が通りかかったのは本当の本当にラッキーだったんだなぁと思った。
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