第53話

テーブルに両肘をついて両手で目元を覆っていた私に、さっきの店員さんはまた少し怒った声で「…また寝てます?」と聞いてきた。


「いえ、起きてます…」


「あの、…いくら時間制限がないとはいえ、———…」




はぁっ…



うっさいな…




「———…他のお客様のご迷惑に」


「出ます」


店員さんの言葉を遮るようにそう言って立ち上がった私に、その人はもう何も言わなかった。


レジに向かう直前、私は図々しくもドリンクバーに立ち寄ってアイスコーヒーを立ったまま一気飲みした。




———…「ありがとうございましたー」



そんなこと、思ってないくせに…



気のせいだとは思うけれど、お腹が空きすぎていつもよりお腹がへこんでいる気がした。


外に出れば一瞬でうだるような暑さに包まれて、なんだかもういろんなやる気を奪われた。




「今何時だろ…」


ポケットに入れていた携帯を取り出して画面を確認した私は、現在の時刻よりも充電の残りのパーセンテージを見て目を見開いた。


「えっ、…もう七十パー!?」



漫喫を出る時はしっかり百パーだったのに…!


そういえば私さっき、ファミレスで暇だからって無駄に携帯触ってたよな…



「はぁっ…もうやだ…」



何となくたどり着いた駅前のベンチに座り、私は年甲斐もなく椅子に両足をあげるようにして膝に顔を埋めた。




全財産、約一万三千円。


家なし、服なし、彼氏なし、金もまぁほぼほぼなし、…それからなんだっけ…


いやもうここまで来たら逆に私にあるものって何なんだって感じだし。



意識はあるけどそれすらも遠のきそうだわ…








「そのワンピース可愛いーっ!!」


膝に顔を埋める私の耳に突然甲高くて可愛らしい声が聞こえて、もちろんワンピースなんて着ていないんだから自分が言われたわけではないことは重々承知だったけれど、それを分かった上で私はゆっくりと膝から顔を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る