第50話

「そっか、そっか!楽しんでね!!」


『うん…いやでもカヤ、大丈夫!?ユラちゃんに頼みなよ!』


「うーん…でもユラちゃんの彼氏との時間は邪魔したくないから」


『あー…まぁあの二人って普段なかなか会えないっぽいからねぇ…』


「うん…でもなんかいつも通りなカナやんの声聞いたらちょっと元気出た!それにバイト先にこれから顔出すからとりあえず給料前借りさせてもらってなんとかするわ!」



私はカナやんに気を遣わせないように明るくそう言ったけれど、それでもカナやんはずっと心配そうだった。


でも日本にいないんじゃしょうがない。



「ごめんね、心配かけて。また帰って来たらゆっくり話聞いてよ!」


『もちろんだよ!!』



それからすぐにカナやんとの電話は切った。



そっか…カナやん、バリ島か…


今の私との格差エグいなー…



そんな現実に少しだけショックを受けつつも、私はしっかりと歩いてバイト先であるカフェを目指した。








九時を過ぎているということもあり、もう私のバイト先はその日の営業を開始していた。


日曜日ということもあって入りずらいな…


私は裏口から事務所に入って、誰かが来るのを待った。



きっと店長は今店の方に出ているのだろう。


こちらから呼びに行ってもいいとは思ったけれど、仮にも今仕事中である店長に私情でしかない用件で呼ぶのはさすがに気が引けた。




それから十五分くらいして、店の方からこちらに近付く足音がしてボーッとしていた私は思わず背筋を伸ばした。




———…ガチャッ!



「ぅわっ!びっくりした!カヤちゃん、どしたの!?」


顔を出したのは私が待ちに待っていた店長だった。


「店長っ…!!」


店長は歳が近い上に女同士ということもあり、その顔を見た瞬間私の中のいろんな緊張の糸が一気に緩んだ。



友達といい店長といい、普段仲良くしてる人って本当にすごい。


こういう時に声を聞いたり顔を見たりするだけでこんなにも安心できるなんて…



「っ、休み希望を出してる上に日曜日のクソ忙しい時に本っ当にごめんなさいっ、」


「どしたどした、なんか怖いよ」


店長はそう言いながら、事務所に取りに来たらしいコーヒー豆の袋を段ボールから取り出していた。



「話せば長くなるので端折りますが…今私には家とお金がありません。お給料を前借りさせてもらえないでしょうか」



昨日から私の状況は何も変わっていないからもちろん今だって私は惨めなはずだけれど、身なり同様この一晩で私にはよく分からない耐性がついたらしい。


もう今の危機的状況を口にすることに抵抗も恥ずかしさもなくなっていた。



今の私は、本気でそれどころじゃない。




「えぇっ!?…あー…」



…あ、これ…


たぶんダメなやつだ…

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