第48話

三時間パック、九百七十円って…


普通に考えればきっとこれは相応の値段で、ポップコーンやアイスクリームとはいえお腹を満たせた上に浴びるようにコーヒーまで飲んだんだから文句なんて本当は言うべきじゃないんだろうけれど…



でも今の私にこの出費はデカすぎるよ…



あの両腕刺青男、私が今三千円弱しか持ってないこと知ってるくせに、わざとか?



「しかもシャワー別料金かよっ…!!」



さすがの漫喫にも洗濯機は用意されていなかった。


体や頭を洗い流せてすっきりできたはいいものの、昨日と同じ下着や服をまた身につけ続けなきゃいけないということを考えれば、さすがにいつまでもその日暮らしというわけにはいかないだろう。




漫画喫茶を出た私は、バイト先であるカフェに向かいながら昨日電話をかけられなかったカナやんに電話をかけた。


とりあえず今晩泊まる宿が確保できれば、お金はバイト先で前借りなりなんなりさせてもらえるだろうし何とかなる。


…と、思う。


こんな状況になったことがないからその全てがうまくいくかは分からないけれど、もうそれしかないと私はとにかく縋るような思いでカナやんに発信した。



漫画喫茶を出る時には時刻は九時を過ぎていた。


そこから憶測するに、私があの人に起こされたときはきっと六時頃だったんだな。





『プルルルルッ、プルルルルッ、———…もしもしーしっ!』


私とは打って変わって妙にハイテンションな声が耳の奥まで突然響いてきて、私は右耳に押し当てていた携帯を思わず耳から離した。



『あれっ?カヤぁーっ??』


何の根拠もないけれど、いつも通りテンションの高いカナやんの声を聞くと今の私を助けてくれそうな気がして私は心の底からホッとした。



「カナやぁぁあんっ!!」


『へっ?どしたのーっ!?めっちゃ泣きそうな声出してんじゃん!!』


と言いつつも、カナやんはやっぱりどこか楽しそうにテンションが高かった。



「助けて、カナやんっ…」


『うんーっ?』


「マコちゃんと別れた。だから今晩泊めてくださいっ…」


『えぇっ!?何で!?てかこんな真夏に別れたの!?』


「え、そこ真夏関係ある?」


『いや、大ありじゃん!!真夏ってみんなテンション上がるし弾けるしいつもより大胆になるじゃん!!夏こそラブラブモード突入でしょ!!』


カナやんの真夏の別れが信じられないその理由は、聞いたところで私には理解できなかった。


でも確かにこの子は昔っから夏がとにかく好きだったなー…



カナやんと出会ったのはホノカ同様高校一年の時だった。


その裏表がなくていつでも高いテンションが、私は割と好きだ。


なんか落ち込んでても元気になれる気がするし、自分の悩みがちっぽけに思えてくるから。



高校の時はホノカとカナやんと三人で、短大に入ってからはそこにユラちゃんも加わって私達はいつでも四人で仲良くしていた。


本当に楽しかったし、ここまで気が合う友達なんてこの三人以外にはいないと思っていた。




これから先その関係がどうなるのかは、私にもよく分からない。

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