第45話

でもまだ開封はされていなさそうだった。


「消毒…ちゃんとしてね」


「……」


「ほら、少しでも早く治さなきゃイケメンが台無しだし、」


「……」




…いや、これはもうマジで早く出て行こう。





「……帰ります」


自分で言っておいてどこにだよなんて思いつつも、そそくさとカウンターの椅子から降りた私はその人に背を向けてすぐに店の出入り口に向かって歩き始めた。




私が出入り口に続くあの細く短い通路に差し掛かろうとしたその時、



「———…おい、」



その人の声が聞こえて私は思わず足を止めて振り返った。



「…え?」


「お前漫喫行け」


「漫喫…?」


…って、漫画喫茶だよね?


「そこならシャワーもあるし携帯の充電器も借りられる」


「っ、えっ、マジで!?」


「……」



そのあとも私は「行ったことないから全然思いつかなかった!」とか「なんだ、それ知ってるなら早く教えてよー!」と昨日のノリでまた少しふざけてそう言ったけれど、その人はやっぱり何も言わずこちらを見ることもなかった。



また私がその人に背を向けて歩き出そうとした時、



「…二度とここには来るんじゃねぇぞ」



そんな小さな声が聞こえて私はまたすぐに振り返った。


でも、やっぱりその人はこちらを見てはいなかった。


私はもうふざけずに「うん、本当にありがとう」と言って、そのまま出入り口を目指して細く短い通路を抜けた。





外はもうすっかり明るかった。


窓からあれだけの光が差し込むくらいなんだからそりゃそうか。



なんとか一晩乗り切った…



さすがに昨日のスキンヘッドの男はもうそこにはいなかった。


当たり前か。


ていうか今って何時なんだろう。


この明るさなら———…いやでも今は真夏だから分かんないな…



六時とかでも十分明るいし。




あの鬼のステッカーはやっぱり外が明るい今改めて見てみてもすごく怖かった。


趣味の悪いお店だ…


でもここが刺青を彫るお店だと思えば、なんだかそんなものにも変に納得ができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る