第43話
「私、暇じゃん!もうちょっと話そうよー!」
『一人でやってろ』
「私は会話のラリーがしたいんだよー!ほら、名前聞いてなかったし!名前何ていうのー!?ちなみに私はカヤっていうんだけどー!」
『……』
「おーい!聞いてるーっ!?」
『……』
それからも何度か声をかけてみたけれど一向に返事は返ってこなくて、なんとなくその人は寝たんだということが分かった。
“朝までには出て行けよ”という言葉から考えると、それまではここにいてもいいってことだよね?
でも朝までここにいることと泊まることはどう違うんだろう。
泊まると私が言っていれば、あの人は私を今入って行った部屋へ入れてくれたんだろうか。
…いや、やっぱりそれはさすがに危険な気がする。
でも不思議だな。
“泊まってくか”の誘いはキッパリと断った私だけれど、夜明け前まではここにいてもいいんだと思うと少しだけラッキーだと思った。
「マジで処女キラーなのかな…?」
まぁ人にはいろんな性癖があるだろうし私には関係ないことだからどっちでもいいんだけど、…
「……」
薄暗いこの店内にはあの卑猥な写真があるからか、無音の中で一人でいるのは少し怖かった。
おまけに入り口に貼られていたあの鬼のステッカー…思い出すだけでマジ怖いわ…
あの人、よくこんなとこに一人でいられるよなぁ…
あのまま会話を続けていたら聞きたいことはたくさんあった。
“泊まってくか”と言っていたけれど、あの人はここに住んでいるのかとか、名前は何なのかとか、いつからこの仕事をとか、なんで彫師になろうと思ったのかとか、腕にあるそれは何の模様なのかとか…
でもそのどれを取ってみても、明け方までの付き合いだと思えば聞く必要があるとも思えなかった。
それから私は、カウンターに両腕を重ねるようにしてそこに頭を乗せているといつの間にか眠ってしまっていた。
———…「…い、……おいっ!」
そんな声と同時に頭に少し強めの衝撃が落ちてきて、私は「んっ…」と声を漏らしながら目を覚ました。
「お前まだいたのか、朝までには帰れって言ったろ」
目を擦りながらカウンターのテーブルに突っ伏していた頭を持ち上げると、目の前には昨日助けてくれたその人がいた。
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