第37話
「平均で言うと一人からどれくらいぼったくるんですか?」
「ぼったくりません」
「とか言いつつぼったくりますよね?」
「しねぇって」
「でも一度はあるでしょ?白状しろやー」
「しつけぇな、お前」
その人は私との会話に興味はなさそうながらも、その言葉にトゲはなくしっかり言葉を返しながら私が買ってきたカレールウの箱の裏を見ていた。
作り方をしっかり確認したらしいその人は、一度箱を置くと「あれ見てみ」と言って店の壁を指差した。
その手に導かれるように左に顔を向けると、そこにはたくさんの写真が貼られていた。
でも店内が薄暗いせいでよく見えなくて、私はすぐにカウンターからそちらへと足を進めた。
「えっ…」
思わず声を漏らしながらカウンターの方を振り返れば、もうそこにさっきの人はいなかった。
一瞬どこに行ったのかと思ったけれど、カウンターの中の奥の部屋に灯りが付いていてそこから野菜を炒めるような音が聞こえてきていたから、切り終えた具材でカレーを作りに行っただとすぐに分かった。
カレールウの箱もなくなってる…
私はもう一度写真に向き直りそれらを見つめた。
なんちゅう世界…
しばらくしてガタッと音が聞こえてまた後ろを振り返れば、さっきの人はまたカウンター内に戻ってきていてそこに座って咥えていた煙草にライターで火をつけていた。
「これ…私は見てもいいんでしょうか…」
「…え?」
「なんて言うか…すごく卑猥で見てはいけないものを見ている気分です」
「……」
そこにあったのは男女の体のいろんな部分の写真で、どれも服を纏ってはいなかった。
「これとか…普通におっぱい見えちゃってますよ?」
見えちゃってるどころじゃない。
“見て”と言わんばかりにカメラに向かって上半身裸の女の人が自分の体を晒している。
「でもこの人胸の形綺麗だな…これは女の私でもじっくり見ちゃいますね」
“見てはいけないもの”と言いつつも、なぜか私はそれらの写真から目が離せなかった。
そんな私に、
「お前どこ見てんだよ」
冷静なその人の声が聞こえた。
「えっ?」
「彫ってるもんを見ろよ」
そう言われてしっかり顔を近付けると、ぼんやりとその写真の中の人達の体にある刺青が見えた。
「あぁ、そういうことか…!だからみんな顔は映ってないんですね?」
「……」
「でも薄暗くてよく見えないです」
私のその言葉に、またガタッと音がしたかと思うと一気に店内が明るくなった。
いきなりつけられた電気に「眩しっ…」と小さく声を漏らしながらも目の前の写真にもう一度目をやれば、やっぱりそれらは卑猥ながらも独特の優美さを放っていた。
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