第25話

何となく全てを理解した私は、部屋に向いていた体を通路にいる彼女に向けた。


「あ、変な勘違いしないでね。ちょっと携帯の充電が切れて充電器借りたかっただけだから」


「……」


それでも彼女の険しい表情は変わらなかったけれど、私も私で急遽思いついた設定のスタンスを変えようとは思わなかった。


「こちらは彼女?」


そう言って右掌で彼女を指し示しながら背後のコザキングにそう聞けば、コザキングは動揺しつつも「えっ、あっ、はいっ」と素直に答えた。



「そっか、そっか。コザキくんに彼女がいたとは…それは知らなかった。無理言って悪かったね。それなら他の人に頼むからいいわ」




コザキング、引っ掛けたのが私で良かったね。


これで本当に私が二十歳そこそこの子なら修羅場になってたかもよ?


だって一瞬でこんな機転を利かせられるのはやっぱりそれなりに歳を重ねた私だったからだと思うから。


アラサーはちゃんと空気だって読むんですよ。




「じゃ、また会社で」


コザキングが今何の仕事をしているのかは分からないけど、まぁ男だけの職場って限られるし仕事仲間っていう設定が一番無難でしょ。


コザキング、さっきまで会社の人と飲んでたって言ってたし。



それっぽい言葉を口にしてさも当たり前のように自然な流れでこの場を立ち去ろうと彼女の方へ近付く私に、彼女はまだまだ険しい目を向けていた。





…この子のその目が、その表情が、



実際に見てもいない一時間程前の自分となぜか重なった。



私もきっとこんな顔をしていたんだろうな。



この子のことを思えば、コザキングのしようとしていたことをちゃんと教えてあげて“今のうちに別れた方がいいよ”と助言してあげるべきだろう。


でもきっとどんな言い方をしたって彼女の怒りは私に向くんだろうから、それならもう何も言わない方が私にとっては得策だ。


それに仮にも一晩世話になろうとしていたコザキングにそれはちょっと申し訳ない気もするし。



二人からのこれでもかというくらいの視線を背中に感じながらさっき登ってきた階段に向かう私に、




「———…ちょっと待ってよ、おばさん」



彼女のトゲを含んだ言葉が聞こえた。


いやもうなんならトゲしかない。



誰がおばさんだって?…このクソガキ。



階段の直前で足を止めた私がゆっくり振り返ると彼女は半身を向けるようにこちらを向いていて、その奥のコザキングはとにかく焦った顔をしていた。



…まぁまぁ、落ち着け。


お前が取り乱してどうする。


私が空気を読んだ意味がないでしょうが。



「…何か?」


「本当にリュウセイの会社の人なんですか?」


あれ…もしかしてそれが通用しない職場?



コザキングよ…


あんたは今一体どんな仕事をしてるんだ…

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