第21話
顔を少し離したコザキングは、私の目の前でフッと小さく笑った。
「え、なに…」
「エッチ一回」
えっ…
「それでチャラってことでどうすか?」
「え…!?」
「携帯も充電できてベッドで朝まで寝られる上に朝飯付きっすよ?なんなら風呂も入っていいし。どう?悪くないっしょ」
コザキングの敬語とタメ語の境界線は一体どこにあるんだろう。
もちろん今更それが気に触るなんてことはないけれど、距離感が分かんなくなるな。
でもとりあえず分かるのは、私とコザキングがそういうことをするっていうのが全くもって考えられないということ。
だって六つも年下だし、こないだまで高校生だった子だよ…?
何より彼氏とかでもないしさ。
そんなことどこで覚えたの、とか親でもないのに思ったりしちゃうよ。
「いやー…それはさすがにね」
「無理すか?」
「そりゃあ無理だよ。当たり前じゃん。だって———…」
…あれ、
ダメな理由って…
「“だって”…?」
…あぁ、そうか。
マコちゃんと別れた今、私にそれを躊躇う理由なんて別にないんだ。
おまけにコザキングはもう高校生でも未成年でもない。
私とそういうことをしたって、お互い誰かにそれを咎められることもないんだ。
もちろん好きでもない男とそういうことはシたくないという思いはちゃんとあるけれど、この危機的状況の中で行為一回を引き換えにそれらが手に入るならば正直それってかなりおいしい話なんじゃないだろうか。
あー…お母さんが今の私見たら情けなくて泣いちゃうかもな。
だっていくら成人してるとはいえ、コザキングって二十歳だよ?
私二十六だよ?
それを引き換えにこの一晩を助けてもらうなんて…こんな情けない大人になる予定はなかったのにな。
「カヤさん?聞いてます?」
「あー…ははっ…」
ことごとく何度も同じことを言われる自分に、私からは思わず乾いた笑いがこぼれた。
考える時間とか頭の中を整理する時間とか、
みんな私にそれを与えてはくれない。
それはやっぱり今の私に選択肢なんてないからなんだと思う。
「…うん、いいよ。ていうかそんなもんでいいんだ」
「カヤさんの顔結構タイプっすよ、俺」
「ねぇ、そろそろマジで敬語やめよう。なんか悪いことしてる気分になるわ」
「はははっ、俺未成年じゃないから大丈夫っすよ」
そう言って私の左手を握ったコザキングの手は、やっぱりどこか幼さの残るようなものだなと思った。
私は食われる側なのか、それとも食う側なのか、そらすらも際どいところだ。
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