第20話

「っ、いいの!?」


「もちろん。俺にここで会ったのも何かの縁すよ」


「敬語いらないよ、コザキング!!」


「ははっ、それよりその変な呼び方マジでやめてくださいよ」


コザキングはそう言いながら組んでいた足をスッと下ろした。



「俺の家、マジですぐそこなんで。なんなら朝までいてくれて構わないっすよ。昔世話になったカヤさんに免じて朝飯も付けます」


「マジ!?超高待遇じゃん!!ヤバい、すごい助かっ———…」


思わず言葉に詰まった私に、もうすでに立ち上がっていたコザキングは「ん?」と言いながら座っている私へと体を向けた。




「どうしました?」


「…えっ…あー…」



…いや待てよ、カヤ。


いくら顔見知りとはいえ、昔一緒に働いていただけの六つも年下の子にそこまで世話になっていいものなのか?


確かにここで通りかかって私に気付いて声をかけてくれたコザキングにそれなりの縁を感じなくはないけれど、だからってこのまま甘えても私何も返せないよね?


お金もないしその代わりにあげられるようなものも持ってないし。


明日ATMでおろせば多少のお金はあるけど、それをコザキングに渡してしまえば明日以降私はどうやって生きていけばいいんだろう。




マコちゃんのお給料で生活していて自分のバイト代は好きに使ってたから多分残高も知れてるし…


自分の欲しいものはちゃんと自分のお金で買っているから偉いと高を括っていたあの時の自分をぶん殴りたい…




「ごめん………正直めちゃくちゃ揺れるけど、やめとくわ」


「え、どしたんすか、急に。テンションの移り変わりエグいっすよ」


「いや…今貸しを作ったところで何も返せないし、私今大したお金も持ってないんだよ。こんな年下の子にただで泊めてもらうのはさすがに気が引けるしさ」



…って、これも言えば言うほど“そこは気にしないで”を待ってるみたいでなんか嫌な感じだな。



「ごめんコザキング、もう私のことはいいから帰っていいよ」


とりあえず朝になったらバイト先に行って店長に泣いて縋ろう。


休み希望を出した上に究極に忙しいであろう日曜の朝に本当申し訳ないけど…たぶん今の私にはそれしかないわ。


「あー…」


何かを考えるようにそんな声を漏らしたコザキングは、しばらくして「カーヤさん、」と軽い口調で私の名前を呼んだ。


私は“カーヤ”じゃないぞなんて思いながら俯いていた顔を上げると、




「———…」




……え?





その瞬間を狙うかのように、コザキングは立ったまま体を屈めて私にキスをした。

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