第15話

「うん、…だから何って」


『いやほら、この前あんた言うとったやん。結婚式挙げるなら白無垢がいいなーって』


「……」


『マコトくんはその辺のことどう思てるんかなって』


「……」


『まぁマコトくんのことやからあんたの希望を優先してくれるとは思うけど…それでな、お母さんの知り合いが安くレンタルさせてくれるとこあるよって言うとったからな?それあんたに教えたろう思て遅い時間やったけど電話してみたんよ。まぁでもそっちで式挙げるとなればそっちでレンタルするんが普通なんかもしれんけど…まぁでもどうせなら安い方が———…』






———…まただ。



また、周りの音が聞こえなくなった。


繁華街はこんな時間でも騒がしいのに、私の耳には何も届かない。



もっと言えば、耳元で一方的に喋り続けているお母さんの声も私には途中から入って来なくなった。



お母さんがそんな明日でもいいような話をわざわざこんな時間に電話をしてまで伝えたかったのは、きっとその日が待ち遠しくて仕方がないからだろう。





『———…って、カヤ?聞いとるん?』




今日何度も言われた度重なるその言葉に、剥き出しになっていた両腕と両足が真夏にもかかわらずなぜか少しだけひんやりとした気がした。



「…うん…聞いとる…」


『せやからまぁもちろん二人のことやから二人が決めたらええとは思うんやけどね?もしお母さんにもできることがあったら遠慮せずに言うんやで?お金の心配なんかせんでええから』


「うん…ごめん…」


そんな私のよく分からない謝罪に、お母さんも『何でごめんなんよ』と笑っていた。




それからすぐにお母さんとの電話は切れた。


マコちゃんと別れたことはさすがに言えなかった。



お母さんに淡い期待をさせてしまったのはこの私だ。



たしかに私、今年のゴールデンウィークで帰省した時にテレビを見ながら“白無垢いいな”って言うた気がするわ。


だって…こんなんなるって思わんかったし…







とりあえず今日のところは誰かに泊めてもらおう…



そう思いながら私は携帯を開いて心当たりのある女友達の名前を探した。



ユラちゃん…


ユラちゃんならホノカのこともマコちゃんのことも知っているし、優しく話を聞いてくれそうだ。




『プッ、プッ、プッ、…プルルルルッ、———…』


しばらくして聞こえた発信音に、私は携帯を耳に押し当てたまま俯いた。

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