第7話

「そう?プリン二つ買うだけにしては時間かかった方だと思うけど」


「カヤまた悩んでたんでしょ。こんな時間に甘いもの食べたら太るよー。最近太ったかもって気にしてたじゃん」


「私が太ったら嫌だ?」



私、ホノカよりは痩せてると思うけど。


ホノカと違って胸がないからそう見えるだけかな?


あの子脱いだら細いの?



「そんなことないけど」


「マコちゃんっておっぱい好きだっけ」


「ははっ、急に何の話してんの」


私とホノカの違いって何だろう。


ていうか、ホノカにあって私にないものって何なんだろう。



「おっぱい大きい人が好きなのかなって」


「そこはどっちでもいい」



じゃあ何だろう。








…信じてるよ、マコちゃん。


でもなんか、マコちゃんの背中見てたら急に分かんなくなったわ。




「マコちゃん…私のこと好き?」


「ねぇカヤ、悪いけどこの企画書だけ今夜のうちに完成させときたいんだ。先にプリン食べててよ」




今マコちゃんが好きなのは私じゃないの———…?




「えー、一緒に食べようよ。せっかく二つ買ってきたのに」


私のその声と表情は完全に合っていなかった。


でもそれも、ずっとこちらに背を向けるマコちゃんは気付いていないだろう。



「俺もあとで食べるって」


「とりあえず一旦手ぇ止めようよ」


「ごめん、マジで今無理だから」


「でも一緒に食べようと思って買ったしさぁー、」


「はぁ…カヤ」


「……」



いい加減にしてよと言わんばかりの調子で聞こえたため息と私の名前に、私は思わず黙ってその後頭部を見つめた。




「一緒に食べたいならとりあえず冷蔵庫入れとけば?俺は今が無理なだけで一緒に食べることを嫌だって言ってんじゃないんだから」


「でも私話したいことあるよ」


「うん、だからそれもあとで聞くからさ、とりあえず今は———…っ、」



———…ガンッ!



気付けば私は、マコちゃんが座る椅子の背もたれを思いっきり右足で蹴っていた。




「……カヤ?」


やっとこちらを振り返ったマコちゃんは、少しだけ驚いた顔をしていた。


それが“少し”なのも妙に腹が立つ。




「…手ぇ止めろっつってんだよ」




…あぁ、



マコちゃんにこんな口の利き方をするのはこの六年も一緒にいて初めてのことだろう。


もっと言えば八年、


出会ってから一度もこんな風にマコちゃんに言葉を荒げたことはない。


もちろん足蹴にしたことだって一度たりともなかった。



どんなにムカついてもどんなに喧嘩しても私はやっぱりマコちゃんのことが好きだったし、マコちゃんだっていつも…


いつも“ごめんね、カヤ”って、




“好きだよ、カヤ”って…



それが一番最近いつ言われたのかも思い出せないなんて、そんな悲しいことある…?



私って今こんなに怒ってたんだと、私はなぜか他人事のように思った。

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