第6話

悩みに悩んだ結果マコちゃんと同じプリンしか買わなかった私の持つコンビニ袋はとても小さくて、それでもそこに財布も入れたから袋の中は少し窮屈そうだった。


その袋をブンブン振りながら、私はとにかく走った。


もうプリンの原型なんてどうでも良かった。




“マーくんといつ別れる?”



“マーくんが“俺が言う”って言ってたから私から言うつもりはなかったんだけど、…”



“順番間違えて本当にごめんね”



“私は部外者じゃないよ。…当事者だよ”





家に着くまでの間、頭の中で何度も何度もホノカの言葉が蘇った。


その度に足下がグラつく気がして、私は地面を蹴る足の裏に思いっきり力を入れて前へと進んだ。




マコちゃんのバカ。



…ま、心配すんなよ。


初犯でしょ?許すよ、当たり前じゃん。


もう六年だよ?


一度の過ちで終わりにするには一緒に過ごした時間があまりにも長過ぎるよ。


カッとなったその勢いだけでこの六年を捨てるなんて、私にはできないもん。


でもそれは私が言いたいことを全て言って、マコちゃんがちゃんと私の目を見て誠心誠意謝って、話はそれからだよ。



話はちゃんと聞く。


謝罪もちゃんと受け入れる。


そしたらさ、またここから二人で頑張ろうよ。




走ったからなのかこれからマコちゃんと話すからなのか、私の心臓は家に着いてもずっとバクバクとうるさかった。




———…ガチャッ!




「ただいっ……まっ…はぁっ、はぁっ、はぁっ、」


上がる息をそのままに帰ったことをマコちゃんに知らせれば、奥の部屋からはマコちゃんの気の抜けた「おかえりー」という言葉が聞こえた。





コンビニのレジを通ってから随分経った二つのプリンは無事だろうか。


深夜とはいえ真夏だし私めっちゃ走ったし…



…いや、今はそんなことどうでもいいか。



まだ少し上がる息をそのままに、私は奥の部屋へ行くために履いていたサンダルを雑に脱いで目の前の廊下を進んだ。


途中通るキッチンは無視した。


プリンを冷蔵庫に入れようかという思いが頭をよぎらなかったわけではないけれど、やっぱり今はそれもどうでもいい。







「…ただいま」


奥の部屋へたどり着いた私は、こちらに背を向けて椅子に座りパソコンに向かうマコちゃんに声をかけた。



「うん、おかえり。早かったね」


マコちゃんは振り返らずにそう答えた。


きっと仕事をしているのだろう。


土曜の深夜だというのにお疲れさん。




…でもマコちゃん、


たぶんそれも今はどうでもいいことだと思うよ。

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