第5話
『…よろしくお願いします』
ホノカの改まった敬語には少しだけ圧を感じて、それにムカついた私はコンビニの袋を持っていた左手に思わずぎゅっと力を入れた。
「だからわかったって。とりあえず私とマコちゃんのことは二人で話をさせてよ」
『それはもちろん…でもね、』
「部外者がしゃしゃり出てくんな」
思わず言ってしまったそれに私は一瞬“しまった”と思ったけれど、そんな思いはホノカの次の言葉ですぐに消え去った。
『私は部外者じゃないよ。…当事者だよ』
当事者…
…あぁ、そういうことか。
ホノカは今回のことに対して、あくまでも自分と“マーくん”が正式に付き合えるかどうかってところにしか目がいっていないんだ。
彼の彼女は私なはずなのに。
じゃあ部外者は私?
ははっ、…ないない。
絶対ない。
『だってそうでしょ?マーくんが好きなのが私なん』
「とりあえずお前黙れよ」
『……』
急に不気味なほど落ち着いた低い声でホノカの言葉を遮った私に、ホノカはやっと黙った。
「あと“マーくん”じゃないから。…“マコちゃん”だから」
『……』
言いたいことはきっと山ほどあったけれど、私はその全てを飲み込んで「じゃ」と言って電話を切った。
その瞬間、さっきまで意識していなかった周りのちょっとした騒がしさが私の耳に鮮明に届き始めた。
都心に近いこのコンビニは深夜でも結構人がいて、私の立っていた場所のすぐ近くでも煙草を吸いながら喋っている数人の集団がいた。
帰ろう、
マコちゃんが私の帰りを待ってるはずだ。
私は以前、コンビニスイーツを選ぶのに時間をかけすぎて深夜にもかかわらずコンビニを出るのが遅くなったことがあった。
あの時の私は携帯も家に置いて出ていたから、マコちゃん、なかなか帰って来ない私を心配してコンビニまで来てくれたっけ。
それから“これからは絶対に携帯は持って行きな”ってちょっと怒られたんだったな。
だから私、今日もちゃんと言われた通り携帯を持って家を出て…
…帰ろう、早く。
マコちゃん…
マコちゃんっ…!
気付けば私は携帯とコンビニの袋を両手に持ったまま、家に向かって走り出していた。
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