第2話

二十六年も生きていれば好きなものはたくさん見つかるわけで、


社会人になってからの平日のお休みだとか、


天気が良い日のお昼くらいにウトウトすることだとか、


私は自分のちょっと古臭い名前が大嫌いだったけど、それもマコちゃんが「可愛い」って言ってくれたから今となっては割と好きだ。



私はそんなマコちゃんのことももちろん大好きだよ。


優しくて頼り甲斐があって私が苦手な虫だって迷いなく一撃で殺してくれるし、


“きっとこの人と結婚するんだろうな”って、想像する未来は漠然だしまだまだ曖昧だけれど私はちゃんとそれを願っていた。





マコちゃんも、もちろんそうだと思っていた。





『もしもし?カヤ?…聞いてる?』


一瞬、すぐそこの踏切の音が途切れた気がしたのは気のせいだろうか。


「…あ、ごめん、聞こえなかった。踏切の音うるさくて…もう一回言ってもらってもいい?」


『だからさ、マーくんといつ別れるのって』



聞き慣れないその呼び名に私の心臓はドクンと嫌な音を立てた。



たしかに今電話をしているホノカは私の友達でマコちゃんとも何度も会ったことがあるから、マコちゃんが話題に出てくることは何もおかしくはない。


でもホノカにとってのマコちゃんは“マコトくん”だったはずだし、今ホノカが口にした質問は電話をかけてきて開口一番に言うべきことじゃない。




“いつ別れるの”ってどういう意味だろう。




『…ごめんね、カヤ』



何が“ごめん”だろう。


何の“ごめん”だろう。


すごく嫌な予感がするけれど、きっと今の私にそれを聞かないという選択肢はないんだろうな。



『マーくんが“俺が言う”って言ってたから私から言うつもりはなかったんだけど、…やっぱりいざ別れ話を切り出すとなれば六年の情が嫌でも出てきちゃったりしちゃうかもなって。それで話が進まないのは耐えられないから』


ホノカの言うそれにはやっぱり疑問点しか浮かばなかった。


“別れ話”って何だろうとか、“耐えられない”って何だろうとか、…



『その反応だとやっぱりまだ聞いてないんだよね…?』


「……」






———…あと、私は土曜の深夜も好きだった。


次の日に仕事がないからどんなに夜寝るのが遅くなっても気にならないし、今日みたいに夜中にコンビニスイーツを選ぶ背徳感は何とも言えない楽しさがあるし、たまにお腹空いてカップ麺とか買っちゃったりして家に帰ってマコちゃんとそれ食べながらレンタルした洋画とか見て朝までダラダラしたりしてさ。


“また太るー”とか言いながら。


んでその洋画のちょっとエロいシーンとか見て変なスイッチ入ったりとかして。



それが“土曜”であることももちろん重要で、その日も朝からダラダラしたりして適当に時間を無駄にしたっていうのが前提としてあるような、



そんな深夜のコンビニ。

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