第14話

14



フワフワと漂う蛍の光が

まるで人の魂みたいに、俺たちを覗いている気がした。


彼の手は開いた浴衣の襟の中。

肩を抜いて辛うじて帯で止まったベージュの衣が腰の辺りでゴワゴワとたゆむ。


相葉さんの吐息が肌を撫でた。

冷房器具なんてないのに…寒くて寒くて仕方なかった。

ただ、相葉さんが触れてくれるだけでソレをやり過ごした。

好きで好きで好きで

どうしてこんなにこの人を求めてしまうのか理由が分からないくらいただ好きだけだった。

長い指がいつしか、俺の未知の領域に踏み込んで…

怖さに力が抜けなかった。

相葉さんが動きを止めて、俺の顔を撫でる。


『怖いかい?』

優しい声に、俺は小さく頷いた。


『可愛い人だね…君が…好きだよ。』


相葉さんはそう囁いて…俺を抱いた。



身体がガチガチに固まっていたはずなのに、痛みどころか…

快感の波しか訪れず…

身を任せた俺は深く暗い海底に沈められるようにソレに酔いしれた。

これは…夢なんじゃないかな…

僅かに正常な判断を下す脳がそう呟いてくる。


残りの意識が理性を奪って行くのに、時間なんてかからなかった。


相葉さんの動きに合わせて俺の身体が揺れた。

何て綺麗な身体なんだろう。

貫かれながら遠のく意識。


俺を離さないで。


しがみついた相葉さんの腕を自分の指先が撫でながら布団に滑り落ちるのを感じていた。


そこからは


何も覚えていない。



目を覚ましたら、側には相葉さんが居た。

団扇で俺を仰ぎながら、優しく微笑んでいる。


「あい…ばさん…」

『目が覚めたかい?…身体は…辛くない?』

頰に触れた彼の手に手を重ねた。

「大丈夫…」

『うん…良かった。…帰らないとならないね』

「あ…うん…家に連絡してなかった…携帯…今…何時かな?」

『荷物は玄関に置いてあるんだ。けい…たい?もそこにあるよ』


相葉さんがそういうと丁寧に畳んだ制服を手渡してくれた。

『身体は拭いたから着替えて大丈夫だよ。俺はその間…出てるね』


「あ…ありがとう」

身体…拭いてくれたんだ…。

恥ずかしくて耳が赤くなるのを感じた。

障子が閉まるのを確認して浴衣を脱いだ。

胸元や脇腹の辺りに…


紅い花が散っている。内出血の跡を指先で撫でる。指先が震えた。


どうしよう


好きだ


どうしょうもないくらい


胸が苦しい。


制服に着替えてゆっくり障子を開けた。

ギシギシ鳴る廊下を歩いて玄関に向かう。

玄関土間には通学鞄が確かに置かれていた。


後ろから声がかかる。

『送るよ。…行こうか』

気配を感じなかった俺は飛び上がってビックリした。

「脅かさないでよ…ビックリしたじゃん」

『クフフ…ごめんごめん』

大きな手のひらがわしゃわしゃと俺の頭を撫でた。

気持ちいい。

「ふふ…」

『何だい?一人で笑って…』

相葉さんが俺を覗き込む。

「ううん…俺、こうやって頭撫でられるの…好き」

そう返すと、相葉さんは一瞬だけ目を見開いて…懐かしそうに…微笑んだ。


『そう?…幾らでも…君が望むなら』


そう言って…相葉さんはさっきより優しく俺の髪を撫でた。

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