第6話
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バス停がゆっくり暗闇に包まれ始めた頃、俺は何だか身体のだるさを感じていた。
風邪とかじゃない…
なんだろう、今まで感じた事のない身体の重さだった。
隣の相葉さんに目をやると、懐かしそうに目を細めて俺に目線を向けていた。
「あ…どうか…しました?」
『和くん…俺ね、君に会えて…実は少し浮かれているよ』
クスッと苦笑いをする相葉さん。
丸眼鏡を中指で押し上げる仕草が何だかたまらなかった。
綺麗な長い指のせいだな…
変な考えを揉消すように頭の中で言い訳してから俯いた。
『あぁ…ごめん、困るよね。…なんて言ったらいいか…えっと…』
「困らないですよ…」
『え?』
「俺は別に困ってなんか居ませんよ?」
相葉さんは一瞬目をパチクリさせて…
それから、クシャっと笑いながら言った。
『そうかい?クフフ…なら、良かった。いや、実はね…和って名前が…俺の大切だった人と同じだったもんだから。思い出してしまって』
俺は寂しげに俯きながら話す相葉さんの言葉を聞き逃せなかった。
過去形になってる…よね?
大切だった…
思い出して…しまって…?
「相葉さんの大切な…人?」
和…
和子とかかな…
和代?
和葉?
和…和…
和って名前の女の子も今なら居なくもないか…
どんな人だろう…
『あぁ…とてもね…大切な人だったんだ』
「…別れちゃったの?」
俺はつい口から言葉を発してしまった。
その時だった。
バスがカーブを曲がり、直線になったあたりでまた昨日のようにハイビームが目に突き刺さってくる。
同じようにして迂闊にも視界を奪われた。
何秒くらいの間かな…
ぎゅっと閉じた目を開いた時には…
やっぱり相葉さんはそこには居なくなっていて…
俺は
身体の重さを
…感じなくなっていた。
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