第5話

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影を揺らしながら歩く。

携帯からお気に入りの曲をイヤホンで聴きながらバス停へ向かった。

まだまだ蝉の鳴き声が聞こえる。

暑くてシャツが背中に張り付きそうだった。

普段から汗なんてかかないのに変だなって思ってた。


「あ…」

『やぁやぁ…また会ったね。』


彼だ。

今日は丸いレンズのメガネを掛けている。


俺はイヤホンを外して照れたように笑った。


『和くんも今帰り?』

「あぁ…そうなんです。」

『部活かい?』

優しくて、どこか古風な喋り方に俺はまるで少し前の時代にタイムスリップしたんじゃないかと思ったりした。

薄いベージュのパンツと麻のシャツ。丸眼鏡が今時のオシャレに見えなくもなかったけど、やっぱりどこか古風な感じが勝っていた。

「あぁ…いや…」

俺は俯いてしまう。

今日は…アレのせいでこの時間なんだ。

『ん?具合悪い?大丈夫かい?』

「大丈夫っ!大丈夫です!…実は…コレ」

俺は鞄から一冊の文庫本をゆっくり取り出した。

『あっ…クフフ。気になったのかい?夏目漱石』

彼は自分の手にあった文庫本をヒョイと俺に掲げてみせた。

「何だか凄い大事そうに読んでたから…」

『ふふ…うん、面白いよ。きっと和くんも気にいると思うなぁ』

「…だったら良いんだけど…あぁ…俺、本とか普段読まないから…あっ!そうだ!あのっ…俺も…名前…聞いて良いですか?」


彼は文庫本を膝の上でゆっくり閉じてこっちを見つめた。丸眼鏡の向こうで目尻にいっぱいの皺が見える。

『相葉です…相葉雅季って言います。』

きちんと自己紹介してくれるもんだから、思わず背筋が伸びた。


相葉


雅季


相葉雅季…


彼の名前は


相葉…雅季さん。

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