第65話

65


瑞季の病室は一般病棟の個室に移されていた。

体調の急変が無かった事にただ安堵して、案内された病室をノックする。


開き扉を開けると瑞季がこっちを向いて微笑んでいた。


「孝也…」

『瑞季!』

駆け寄って頰を撫でる。

「夕方になんの…ずっと待ってた。」

『うん…俺も。身体は?』

「へへ…折れまくってるから痛い。全治4ヶ月とからしい。」

『4ヶ月か…酷い…』

笑ってやると、瑞季は苦笑いを返した。

「孝也…松岡に送って貰ってんだよね?毎日無理して来なくても」

『あぁ…大丈夫。俺、弱み握ってるから』

「うわぁ…何それ、怖っ」

『ハハ…大丈夫だよ。松岡はやりたくて送迎買って出てくれてんだ。そうしたい理由を知ってるだけだよ』

俺は瑞季の前髪を撫であげた。

「孝也…手…あんま動かねぇから…もっとこっち来て」

瑞季が目を細める。

俺は瑞季の顔の横に手を突いてベッドに乗り上げ座った。

ゆっくり顔を近づける。

「…もっとだ。」

『ワガママだなぁ…ちゃんと言えよ』

瑞季はフッと口元だけで笑うと言った。


「キス…しろよ」

『瑞季…可愛い…』

「んぅっ…ふっ…んっ…ハァ…」


何度も

何度も

唇を貪った。


サラサラと波打つミルクティー色の髪

長い睫毛

薄い唇は必死に俺を求めて

水音と漏れる甘い吐息だけが響く。


『瑞季…離してやらない。大人になっても…俺達は変わらないから。ずっと一緒だ。』


瑞季が涙を流す。


「ずっと…一緒」

優しく瑞季を抱きしめる。

『そう…ずーっと、一緒だ。』


時間が許す限り瑞季に触れて、

瑞季の声を聞いていた。


俺達は変わらない。

俺達は変われない。



成長のない愛情を

交換し合うんだ。

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