第58話

58


白いカッターシャツにスラックス。

鞄を担いで寮を出る。


ザワザワと鳴る葉を見上げて深呼吸した。


朝のまだ涼しい空気が肺を満たす。

それから、俯いてジャリっと音を立てる足元を見つめた。

俺は今、自分の足で立ててる。

明日も、明後日も…この足で瑞季を迎えに行こう。

俺と離れる事を考えるなんて…ほんとバカだよな…。


『バーカ』


俺は小さく呟いて笑った。

教室に入って、授業が始まるのを頬杖を突いて待った。

一限が始まるチャイムが鳴り響く。


俺は窓際の瑞季の席を見つめた。

カーテンが風を受けて大きく揺れている。

クリーム色のカーテンの裏側で…

キスをしたのを思い出していた。

胸が詰まる感覚に手の平で顔を覆う。


「おい、杉野…」

数学の先生が俺を呼んでいる事に気づいて顔を上げると、もう目の前に先生が居て俺のカッターシャツの襟を掴んで引いた。

俺は瑞季にネクタイを結んで貰う時のように顎が上がる。

「ネクタイどうした?校則違反になるぞ」

『あ、何か無くして…』

引っ張られていた襟を先生がパッと離した。

俺はカクンと下を向く。

「無くした?だったら買うしかないぞ。あとで職員室に注文の手続きしに来い」

『あ…はい』

だらしなく返事を返してシャーペンを握った。


結べない


結べないネクタイが



俺を泣かせる。


ノートにポタポタと涙が落ちて、俺はまた手で顔を覆った。


さっき引いたラインが滲む。

どんどん広がって、胸の不安が膨らむのを感じる。

俺は立ち上がって

『先生、便所』

と教室を出た。


トイレの個室にフラフラで入ると便器に向かって嘔吐した。


『ハァ…ハァ…ハハ…よっわ…弱すぎんだろ俺


早く放課後になってくれ

瑞季に

早く会わせて

俺を楽にして


側に居ない事が


こんなに苦しいなんて…

こんなに

苦しいなんて。

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