第56話

56


相葉の部屋を出て101号室に戻った。

この部屋からも月明かりが見える。

俺は瑞季のクローゼットを開いた。

清潔な柔軟剤の香りが瑞季を思い出させる。


看護師が言った言葉…


あなたの匂いがするものでも、何でも、意識が戻るかもっ…て。


俺は瑞季が良く羽織っていたパーカーを取り出した。

ぎゅっと胸に抱くとふわっと甘い香りが立つ。


瑞季の香りだった。

甘くて優しい匂い。

俺は涙をダラダラ流しながら、パーカーを抱きしめて横たわった。


腕の中で、瑞季が眠ってる。

そんな感覚を思い出しながら、俺はいつの間にか眠ってしまった。


浅い眠りは妙な夢を見せた。


有名な絵画の前で、瑞季が俺を呼んでいる。

その絵は酷く残酷な物で、天使であろう人物は大きな羽を毟り取られ力なく悲痛な表情で倒れ込んでいる。

絵画の半分は真っ赤な血の海だった。


瑞季が最後に…

俺に言う。



「これ…俺だね」



ガバッと飛び起きた俺は汗だくで…

『ハァ…ハァ…何で…瑞季…』

俺は手に握ったままのパーカーに顔を埋めた。

『頼むからっ!!目、覚ませよっ!!ぅ…ぅゔ…俺…1人じゃ…』

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