第55話
55
寮の部屋に帰ったら、ドアノブにサンドイッチとコーヒーが掛かっていた。
こんな事をするのは泣き虫のお人好し、相葉しか居ないだろう。
俺は苦笑いしながら102号室をノックした。
中からひょっこり顔を出したハンサムは俺を見て、手元で揺れる袋を見下ろした。
『杉野、サンドイッチ好き?』
『…おぅ…すげぇ好き。ありがとな。』
『入りなよ』
相葉に促されるままに中に入った。
『二宮は?まだ戻らない?』
部屋を見渡して呟いた。
『うん…まだだね…』
相葉は窓の外に目をやって呟いた。
『あ、今日どうだった?市川…』
相葉が気を取り直すように問いかけてくるから、頭を左右に振った。
『ピクリとも。眠り姫だよ…顔の痣は…少しマシになってたけど…』
『そっか…』
相葉は机の引き出しから煙草を取り出して箱をこっちに差し出した。
俺は苦笑いしながら一本拝借する。
『何か…貰ってばっかだな。』
『つまんない事言うなよ。あ…寮長がさ、隣りだから、気にしてやってくれって言ってた。あの人、良い人だよね。なんか色々分かってるんだなぁって。さすが寮長?って感じ。』
『あぁ…俺も朝思った。迷惑かけちゃダメだな…気をつけるよ』
相葉は勝手口を少し開けて壁にもたれかかって煙草の煙りを吐き出した。
俺は近くに歩みよると、向かい側に座り込む。
『相葉は二宮の…どこが好き?』
『えっ!なっ!急に何だよっ!!』
『ハハ、いや、ちょっと聞きたかっただけ…』
相葉は顔を赤らめて煙草の煙りを吐き出すと呟いた。
『よく…分かんない。』
長い足をギュッと引き寄せ膝を抱いて
『分かんないって…変かな?』
そう言われて、俺は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
それから、ぷはっ!と吹き出して
『いや!それ、多分合ってるな!大正解!本当のところ…どこってわけじゃねぇよな!ハハ!俺も気づいたら好きだった。今なんかもう、爪も髪も…好きだよ…訳わかんねぇくらいだもん…』
笑っていた俺は…病室の瑞季を思い出し、歯を食いしばった。
『うん…うん…そうだね…もう、訳わかんないよね…訳、分かんないよ』
相葉は呟いて、勝手口の隙間から見える月を見上げた。
俺はその月に向かって紫煙を伸ばす。
まるで月までの階段みたいに、それは揺ら揺ら揺れて…途中で消えてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます