第53話
53
朝起きて、瑞季のベッドを見て身体が軽く震えた。
恋人って関係に変わってから、瑞季と俺は同じベッドでしか寝なくなっていた。
向こう側は…いつも空っぽだ。
腕の中にいつも子猫を抱いてる気持ちだった。
キラキラする髪と、甘い香りと….白い肌。
寝起きが最悪なクセに…俺のネクタイは誰にも結ばせないとばかりに寝ぼけながらでも結んでくれる。
俺は臙脂色のネクタイを首に掛けて食堂に向かった。
俺とすれ違う何人もがザワザワと噂話をしていた。
自殺だってさぁ
杉野とモメたんじゃね?
鬱だったんだろ?
2年にレイプされたってさ
俺は手にしていたトレーを長机に投げつけた。
ガシャーンと食器やなんかが散乱する。
叫び声と怒声…
調理室のおばちゃんが駆け寄り、生徒の誰かが俺のネクタイを引っ張り投げ捨てた。
掴み合いになり、殴りあいになり、気づいたら馬乗りでソイツの顔面を潰しに掛かってた。
誰かに後ろから羽交い締めにされて、振り上げた血塗れの拳に相葉が触れていた。
俺を抑え込んで羽交い締めにしてるのは桜ノ宮で、相葉は必死の形相で俺の拳を握りしめてる。
俺は肩で荒く息をついて…脱力した。
『悪りぃ…』
俺の下敷きになってた噂好きの男は悲鳴を、上げて逃げていく。
「杉野…どうしたんだよ」
桜ノ宮が羽交い締めにしていた腕を抜いて俺を立たせる。
『いや…何もねぇ….』
そこへ寮長が現れた。
「何もねぇ…じゃ無理ねぇか?これは…見過ごせねぇなぁ」
ニコニコ笑っている黒く日焼けした小柄な寮長は
全然目が笑ってなかった。
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