第45話

45


「暑くなってきたなぁ…。」

一頻り瑞季を求めて、二人フローリングに座り込みながら勝手口の隙間から入る風に当たっていた。

シーツに包まって後ろから抱きしめながら煙草を吸う。

瑞季の肩に顎を乗せて煙りを吐き出した。

『暑いなら離れようか?』

「意地悪言うんだな」

『ふふ…"嫌だ"とか聞きたいじゃん。』

「女に頼めよ、バカバカしい」

『ちぇ…ぁ…じゃあさ、じゃあ…松木の元彼みたいにさ、俺が急に結婚とかしちゃったらどうする?』

瑞季の髪に鼻先を埋めながら聞いてみた。

可愛らしく離れないで!とか、ちゃんと、嫌だ!とかがどうしても聞きたくなってしまった。

そしたら、暫く黙るから、悪ふざけが過ぎたかなって…もしかして泣いてたりしてって手を頰に伸ばした。

冷たい瑞季の頰はぎこちなく引き上がって…


「俺は…それを望んでるよ」


今にも泣きそうな顔で俺に笑いかけた。

俺はビックリして…ビックリし過ぎて声が出ないまま固まってる。

「おまえはきっといい父親になる。普通に…幸せになれる。」

『瑞季…』

「なんて顔してんだよ、バーカ!あったり前だろ!俺たちだって…いつまでも一緒に居られるわけじゃないよ。いつまでも学生で居られない…松木の元彼は…間違ってない…きっと、社会ってそういうこ…とって…何…泣いてんだよ」


瑞季の身体をキツく抱きしめた。後ろからギュッと腰に腕を回して、開いた脚の間に身体をしっかり挟んだ。

肩に頰を寝かす。

『んだよっ!…何なんだよっ!何でっ!何でそんな事いうんだよっ!!』


瑞季の身体は震えていた。


泣いているのか…我慢しているのか…

確かめるのが怖かった。


だから、俺は自分の事ばっかり…

自分の想いばっかりぶつけて…


『おまえ、そんな事絶対許さないからっ!!こんなに好きにさせてっ!絶対許さないからなっ!おまえはずっと俺の物で!ずっと俺の側に居るんだよっ!!』


「たか…や…好きだよ。…俺、おまえしか…好きじゃない。…好きに…なれないよ…」


瑞季はそう言ったのに…その言葉は


違う意味を孕んでいるようで

ただ、怖かった。


俺は怖くて怖くて、瑞季に何も聞き返せなかった。


それは…たった今の話?

俺しか好きになれないのは、この先ずっと未来も変わらず?

だったら

だったら俺達は離れないだろ?


おまえが話した内容はチグハグで

腕の中に居るはずなのに…


急に遠くに感じる。


俺は怖くて

それがいつまでも怖くて


瑞季を離せず、子供のように泣いていた。

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