第41話

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翌朝、腕の中の瑞季をギュッとしてから身体を起こし頭を掻いた。

『ねむ…』

「晴れだなぁ…。」

ベッドから瑞季の声がする。

『ん〜、だな…』

俺はノソノソと着替えを済ませて、ベッドで胡座をかく寝起きの瑞季の前に座った。

『んっ…』

顎を上げて首に掛けたネクタイが結ばれるのを待つ。

シュ シュ シュル…

いつもと同じ、いつも通りの布が滑る音。

キュッと引き上げてネクタイを締めて瑞季がそれをグイッと緩めた。

「おまえはこんくらいが似合ってる。…今日も良い男じゃないですかっ…」

『どーも…早く着替えな。食堂混むぞ』

俺が鞄に教科書を詰めている間に瑞季が着替えを済ませた。

部屋を出て、暫く行くと二階へ続く階段が現れる。

そこでバッタリ降りてきた松木と出会した。

「あ、孝也、おはよ。…ご飯?」

『おはよう…おまえも今から?』

「孝也、俺、先行くわ」

瑞季がスッと二人の間を擦り抜けて行く。

俺はその腕を掴んだ。

「痛いっ!」

『待ってろって。離れんな』

俺が呟くと瑞季は真っ赤になりながら視線を逸らして立ち止まった。

「…何いちゃついてんの?孝也さ、早くソイツに飽きて僕にしなよ」

松木の言葉に瑞季が見向きもしないまま拳を強く握りしめた。

ちょっとだけ肩が震えて…その姿は、義理の父親に怒鳴られて身動き取れなくて固まってしまう時と似ていた。

『松木、いい加減に』

「悪い、杉野!潤!朝から絡むなぁ〜!嫌われんぞ」

「あ、いや大丈夫だ」

「大丈夫に決まってんだろ!翔くんのバカッ!僕、絡んでないからっ!」

松木がプイッとソッポ向いて食堂に消えてしまった。

階段の上から声を掛けて来たのは松木のルームメイトの桜ノ宮翔(サクラノミヤショウ)。

一見チャラく見えるけど、周りからの評判は優等生さながらなのを俺は知っていた。

何より相葉とよく飯食ってるの見るし、きっと悪い奴じゃない。

俺と瑞季の前まで来て、まるで保護者みたいなノリで苦笑いしながら謝ってくる。

「大丈夫だった?何かごめんね。潤、悪い奴じゃないんだよ。気分悪くさせてたら本当、申し訳ない。」

「本当、大丈夫。何でもないよ。」

俺は桜ノ宮の肩をポンと叩いて笑った。

瑞季が俺を見上げてくる。

ギュッと鼻を摘んで

『行こうぜ、ピザだ!』

って言ったら、瑞季はつままれた鼻を撫でながらギャーギャー喚いた。

「いってぇーだろ!このバカ力!!」

『バカ力は余計だろ〜』


瑞季と言い合いながら食堂へ向かう俺の背中に…強い視線を感じていた。

桜ノ宮…

何だろな…この、ジットリした…重い視線。

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