第25話

25


俺達は美術準備室で何度も何度もキスをした。


瑞季の唇は柔らかくて、薄く、舌先は俺に結びつくように吸い付いてきた。

覚悟が出来なかった訳じゃないけど、滑らかな肌を撫で上げたら、ビクンとしなる身体を傷付けられず…俺はそれ以上手を出さなかった。


ただ…もう後戻りするつもりは全く無くて…。


『瑞季…好きだ。もう絶対…誰にも触らせない…』

瑞季が俺の目を見上げてくる。

「絶対?」

切なげに細める視線。

何を不安に思うんだろう…。

いつも

いつも掴んでやれない。


『絶対だ。…信じろよ』

「ふふ…信じてるよ…俺は孝也しか…信じてないから…」


そう呟いてまた俺の唇を塞ぐ瑞季。


俺は知っていた。

瑞季が俺しか信じていない事。

俺にしか…心を許さない事。

それがこんな想いに辿り着くなんて思わなかったけど…。


歯車はとっくの昔に噛み合わず…狂い始めていたんだ。


「孝也のキス…気持ちいい…凄い…好きだ。」

俺は離れた瑞季の言葉に赤面した。

誰もが振り返るような容姿の瑞季が…俺にだけ見せる愛しい顔。

俺は瑞季の縛られていた手首を握った。

『冷やさないとな…紫になってきてる…』

「…大丈夫。孝也こそ、左、思いっきり殴られてたじゃん…」

『あぁ…大した事ない。そんなに重くなかった。やり合ったら俺は負けないよ…あんな奴等に…それより…こんな目に遭わせて…』

「雨降って……地固まる…だよ。」

『…瑞季?』

「俺はずっと孝也が………好きだった。…襲われなきゃ…孝也は…アダムにはならなかった……だろ?」


俺は泣きそうな顔をする瑞季をギュッと抱きしめた。

胸が苦しい。ギュウギュウ締め付けられて、息も出来ない。


可愛くて…愛しくて…守りたくて、一人占めしたくて…

そうだ…きっと俺だってとっくの昔から、お前が特別だった。

それに沢山の鍵を掛けて…塀で囲んで、見えないフリをして、友達を気取ってた。


「孝也?」

胸に抱いた瑞季が不安そうな声を出す。

俺は涙を止められないまま


『瑞季…俺も…ずっと前から…お前が大事だった。お前が…好きだったよ』


瑞季の首筋からは、甘い香りがする。

首筋に幾つも 幾つも口付けて…


もう散ってしまった桜のように…

白い肌にピンクの花弁を散らした…

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