第23話
23
朝飯を済ませた俺達は、ブレザーを羽織って寮を出た。
『晴れてんな』
「だなぁ…昼、外が良いなぁ」
『ハイハイ。学食のパン争奪戦頑張りまーす』
「孝也、やっさしぃ〜」
『茶化すなバカ』
「いやいや、本当、心から!」
ケラケラ笑う瑞季。今日は背中の傷も痛まないせいなのか、随分と機嫌が良かった。
俺は朝の行為の後ろめたさがあって、それこそ瑞季に甘かった。
晴れた空の下、もう桜は殆ど残っていない。
代わりに青々とした新緑が強い色を放っていた。
チャイムが鳴り響く。
次は体育…
教室でガサガサ雑に着替える。男子校ならではだろう。少し離れた場所で、もちろん瑞季もジャージに着替えていた。
カッターシャツを脱ぐ前に体操服を被って背中の傷を上手く隠して着替えていた。
慣れたもんだな…。
誰にも見られる事なくすんなり着替えた瑞季に安心して、俺達は体育館に向かった。
「あっ…」
『どした?』
「体育館シューズ忘れた」
『取りに行くか』
「いや、子供じゃねぇんだから…先行ってろよ。すぐ戻るわ」
『お、おぅ…』
もう後1分程で始まりのチャイムが鳴る。
きっと二年生も授業始まる前にどうこうしないよな…。
ついて行くか一瞬迷ったけど、きっと…大丈夫だろうと、先に体育館に向かった。
ついたら既に授業が始まりかけていた。慌てて列に並ぶ。
体育館で、準備体操が始まって、ストレッチをしてる間も、体育館の入り口が気になって仕方なかった。
もう5分過ぎた…。
ちょっと遅くないか…。
「じゃ、5周程アップで走るぞー」
先生の声に合わせて、体育館の中をぐるぐると走り始めた。
俺は入り口に近付いた時にそのまま校舎へ走り出していた。
変だ!
遅すぎる!
『ハァ…ハァ…ハァ…』
息が上がるのより、心臓が痛かった。
何かで胸を殴られてるみたいに騒がしい。
一年の教室が並ぶ廊下まで駆け上がった時だった。
ガタァーッン!!
机?椅子?何だっ!何の音だっ!!!
「やめっ!!ろっ!」
瑞季の声っ!!!
『瑞季っ!!瑞季っ!!』
ガラッと教室の扉を開く。
教室の1番後ろの奥に人影が見えた。
中に入ると、瑞季が二人の男に抑えつけられていた。
「孝也っ!」
「チッ!邪魔すんなよなぁ〜今からせっかくしゃぶって貰おうと思ったのによぉ〜、萎えるわぁ〜」
『こっの野郎っ!』
俺は男の胸ぐらに掴み掛かった。
「孝也っ!!」
瑞季が叫ぶ。
殴りかかる直前に手を止めて瑞季に目をやる。
瑞季は首を左右に振った。
そのやり取りの間に、もう一人の男が後ろから俺を羽交い締めにして
「はぁ〜い、ざんねぇ〜ん!お姫様のせいで殴り損ねてんじゃん!」
俺が掴み掛かった男がニヤニヤして近づいてきた。
振り上げられた拳が俺の左頰を殴る。
「孝也っ!!てめぇら!!」
よく見ると瑞季はネクタイで後ろ手に縛り上げられていた。
立ち上がった身体がよろめいている。
瑞季に気を取られた男を蹴り倒して何とか羽交い締めする男も振り払った。
瑞季の前に立って男達を睨みつける。
頭の中が完全に沸騰していた。なのに、瑞季が縛られた手の変わりに俺の服に噛み付いて止める。
『何で止めんだよっ!!絶対許さねぇっ!お前ら絶対許さねぇぞっ!!』
それでも瑞季が俺の背中の服を噛んでギュッと引っ張る。
「あー、バカバカしいったらねぇわ!行こうぜ。またなぁ、瑞季ちゃん♡練習しとけよ〜、フェラ♡」
俺は握った拳を強く振り上げる。
服がグンと突っ張る。
瑞季が息を荒く、殺気だった猫のようにふーっと息を吐きながら、歯を食いしばって俺の服を引っ張った。
奴等は教室をダラダラと出て行った。
後ろに居た瑞季がペタンと座り込む。
俺は慌てて後ろに回ってネクタイを解いた。
教室の机の上には体育の授業に出てる生徒が脱ぎ散らかした制服が積んである。
瑞季を縛った臙脂色のネクタイは誰の物か分からなかった。
俺は解いたネクタイを遠くに投げ捨てる。
真っ赤に鬱血した手首。
「悪りぃ…油断しちゃって…こんな」
俺は謝る瑞季を抱きしめた。
首筋にギュウっと顔を埋めて瑞季の香りを吸い込む。
「孝也…くるし…」
『るせぇ……黙ってろょ…バカ…バカ瑞季…絶対…許さねぇ…』
「…何で孝也が泣いてんだよ…」
瑞季が俺の頭を撫でる。
俺は余計に瑞季の身体を胸に引き寄せていた。
まだ…身体の芯が怒りで震えてる。
『泣いてない…』
「…ふふ…泣いてない?」
『そうだよ…泣いてない…』
瑞季はクタッと俺の肩に頰を寝かして…やっと安心したんだろう。
肩が少しずつ濡れるのが分かって、瑞季が泣いている事に気づくと、またギリギリ怒りが沸き立った。
俺は瑞季を立ち上がらせ、そのまま握った手を引いて歩いた。
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