第7話

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101号室


現在22時55分…


瑞季はシャワーからこっちずっと不貞腐れている。

理由なんて、分からない。


コンコン

「揃ってるなぁ〜」

寮長が扉を開いて顔だけ出した。

『あ、はい!揃ってます。』

「オッケー、おやすみぃ〜」

消灯の点呼を終えて俺はベッドの瑞季に視線を移した。

『なぁ…おまえ何拗ねてんの?』

「はぁ?拗ねてねぇわ…」

『いや…拗ねてんじゃん』

「うるせぇなっ!拗ねてねぇっつってんだろ!バーカッ!」

俺はイラッとして、フワフワの枕を背中向ける瑞季の後頭部に投げつけた。

バフッと命中したのに瑞季が全く反応しない。

『瑞季…』

呼んでも振り向かない瑞季を無視して、もう寝る事にした。

瑞季はいつもそうだ…急に機嫌が悪くなって絶対俺には理由を言わない。

どうしたもんか…。

なんてブツブツ考え事をしてたらいつの間にか本当に眠り込んでしまった。



「ぅゔ…ぅゔ…やめっろ!…やめ…」

俺は隣りのベッドから漏れ聞こえる声で目が覚めた。

瑞季がうなされていたんだ…。

俺はコレを聞くのは…

初めてじゃない。

『おい…瑞季…瑞季…』

何度か揺り起こすと薄っすら開いた瞳が俺を見上げる。

「ぅ…く…孝也ぁ…孝…孝也」

俺は瑞季の身体を横抱きにして自分のベッドへ運んだ。

俺の事を呼んでるけど…完全に寝ぼけてるんだ。

瑞季の隣に身体を寝かし、身体をギュッと抱きしめて頭を撫でた。背中をさすったりしながら、子供をあやすようにする。

うなされながら流す涙を…俺は何度も見てきた。起きてる時は…ちっとも泣かないくせに…。

あの寒い冬の夜以来、瑞季は虐待されたら必ずうちに逃げてきた。

「誰にも言わないでくれ…。」

瑞季からの言葉だった…。

どうしてっ!て何度も何度も説得したけど…答えはノーだった。

児童相談所に相談すれば…兄弟がバラバラにされかねない。

母が愛した人を…罪人にしかねない…。

瑞季は…いつだって犠牲を選んだ。


そんな日は必ずこうしてうなされて、眠りながら泣くんだ。

俺はいつもどうする事も出来ず…ただこうやって、瑞季をあやすしかなかった。


でも…今日は違うだろ?一体…どうしたんだよ…。

「孝也ぁ…」

起きてたら絶対出さないような甘い声で俺に擦り寄って、華奢な腕がギュッと腰に回され抱きついてくる。

俺は苦笑いして

『うん…居るよ。側に居るから…ゆっくり寝な…』

サラサラ流れるミルクティーみたいな髪色…ちっとも伸びない身長…女みたいに長い睫毛…。

俺は何度もキラキラする髪に指先を通した。

髪に頰を寄せて

『やっぱ、暫く側に居ないと心配だな、こりゃ』

と呟いた。

俺は多分、過保護だ。

瑞季が可哀想だからじゃない。

大切だからだ。

瑞季は…俺を信じてる。

だから俺も、瑞季を信じてるんだ。


胸元でようやくスースーと穏やかな寝息が聞こえ始めた。

俺は瑞季をぎゅう〜っと抱き寄せる。

『全く…世話のかかる猫だぜ』

そう言ったのを最後に、瑞季を抱き枕にしてグッスリ眠り込んでしまった。

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