第6話

6


部屋に戻って、俺は風呂の用意をしながら瑞季の様子を伺った。

『瑞季…風呂…どうする?』

「孝也行って来いよ…俺、シャワーで良いや」

『…じゃ、俺もシャワーで良い。疲れたし』

「広い風呂好きなくせに…」

瑞季の呟きは聞こえていた。

だけど、俺はベッドにゴロンと寝転んだまま聞こえないフリをした。


背中の傷を…見せたくないんだよな…。

興味本位に突かれたくない。

俺には構わず見せるくせに…。

ま、気を許してるって考えたらそれも悪くない。

暫くまったりゴロゴロ過ごして、シャワールームに向かった。

ジムのシャワーみたいに横並びに仕切りがあって、カーテンがかかるタイプの造り。ザッと見て10個程が一例に並んでいた。

『空いてないな…』

俺が呟くと、瑞季が怠そうに頭を掻いた。


シャッとカーテンの音がして中から人が出てくる。

あ…隣りの部屋の副長になった奴だ。

『瑞季、空いたから入って来いよ』

「え?」

『俺、一階の副長とちょっと話してくる』

「ちょっ!孝也っ!」

瑞季が何か言いたそうだったけど、俺は副長の後を追った。

『あのっ!副長!』

振り返った副長は髪の先からポタポタと雫を垂らしながら俺を見上げた。妙な色気振り撒いてんな…。

「な…何か用?」

『あ、俺、さっき寮の扉出て肩がぶつかった…』

「あぁ…隣りの部屋…だよね?」

『そう、俺101号室の杉野孝也。さっき一緒に居たのが市川瑞季。隣りだからさ、宜しくな!』

手を差し出すと、副長はぎこちなく手を伸ばして俺の手を握った。

「宜しく…二宮和斗(ニノミヤカズト)です」

『二宮な!引き止めて悪かった。じゃ!』

「あっ!あのっ!杉野くん」

『はい?』

背中を呼び止められて振り返ると、副長はボソリと呟いた。

「俺みたいなのが副長で…良いのかな?」

不安そうに俯く顔が随分しおらしく儚げだ。

口を開いて答えようとしたら、俺の肩を掴んで聞き慣れた声が副長に向かってトゲのある言葉を投げかけた。

「良いも悪いもねぇだろ…ジャンケンは立派な民主主義なんだよ!頑張るんだな、副長。」

『瑞季っ!…ごめん!コイツ口悪くて』

俺は瑞季の額を片手で押さえつけた。

「ちょっ!孝也っ!止めろっつーの!」

『大丈夫!二宮ならやれるよ。困ったら隣りだしいつでも声かけろよな。』

「あっありがとう。」

『おぅ!じゃ!瑞季、行くぞ!』

一杯だったシャワー室は幾つも利用可能になっていた。

というより、俺と瑞季だけだ。

隣り合わせにシャワーを浴びる。

「…デレっとして孝也はあぁいう真面目そうなのが好みなんだ?」

『はぁ?何言ってんだ…』

俺は頭からザァーっと出続けるシャワーを浴びる。

手に髪から滴るシャワーのお湯を受けて顔にかけた。

「そのまんまだけど…」

『バーカ!おまえ何言ってんだよ!さっさと頭と身体洗えよ!先出るぞ。』


瑞季のやつ、何わけわかんねぇ事言ってんだよ…。

好みって…そんな訳ないだろが!


シャワーから出た瑞季は、どうしてだか物凄く機嫌が悪かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る