第3話
3
俺は部屋を静かに出ると、ゆっくり廊下を歩きながら辺りを観察した。
一年の寮は3階まで…特に縛りもなくランダムに行き来してる。中等部からの生徒と高校受験で入った生徒もごちゃ混ぜなんだな…。随分緩いとこだぜ。
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瑞季が言ってた飾り彫りをしてる階段の手摺りを撫でた。
すげぇ…年季感じるなぁ…。
瑞季の奴、こういう古いの本当、好きだよな…。
階段を行き来する生徒が階段を撫でる俺を一瞥していく。
あ、こんな事してる場合じゃないな…俺、ネクタイの結び方練習しなきゃって思ってたんだった!
周りが好き放題に自由時間を過ごす廊下や階段を目にして、自分のすべき事を思い出し慌てて部屋へ引き返した。
瑞季はまだ丸くなって眠ってる。
俺は自分のベッドに腰を下ろして朝、瑞季に結んで貰ったネクタイを解いた。
俯きながらソレをクロスさせたり通したりしてみる。
「なんだよっ…なんでこうなるんだ?……アレ?…ゔぅ〜ん」
あんまりに結べなくて独り言がデカくなっていた。
「るっせぇなぁ…何やってんだよ」
「あぁ、悪りぃ、起こした?」
「うん…起こした」
瑞季はコロンとこっちに身体を向けた。
色素の薄い長めの髪がサラっと流れる。
「もうすぐホールに移動だからな。そろそろ起きなきゃだぞ。」
「うん…で、おまえ何やってんの?」
「ネクタイだよ」
「見りゃ分かるわ!…何で練習?」
「毎朝おまえに結んで貰うわけいかねぇだろ。」
俺はそう言いながら俯き、ネクタイをキュっと締めた。
「あぁ〜…やっぱ反対か…」
「そんなのしなくていい。」
「はぁ?何言ってんだよ」
「毎日一緒なんだぞ…おまえのは俺が結んでやるから。…練習しなくていい。」
俺は捻れたネクタイと格闘していた手をゆっくりぎこちなく止めた。
ゆっくり顔を上げて向いのベッドに寝転ぶ瑞季に視線をやる。
瑞季はジッと俺を見てる。
それから、くるんと俺に背中を向けた。
「瑞季…」
「嫌ならいいっ!!」
クスッと笑いが漏れてしまう。
出会った頃から野良猫みたいなところがある。
素直じゃないんだよなぁ。
「嫌じゃねぇよ。じゃ、頼むわ。なんかやっぱ出来ねぇし』
俺がサラッとお願いすると、またくるんとこっちに振り返って得意気に言った。
「おまえには無理なんだよ!超!不器用なんだから!俺が居なくちゃ何にも出来ないの!」
「ハイハイ!もう、それ聞き飽きたっつーの!そろそろ行こうぜ」
「…んぅっと…」
瑞季が起き上がって伸びをした。
立ち上がって俺に近づいてくる。
「おまえさぁ…ほんっとバカみたいに背ばっか伸びるよな…」
「あぁ?!バカは余計だろうがっ!」
首にかかった細い臙脂色のネクタイに白い指先が伸びてくる。
「んってしろ…」
瑞季に睨みまれて顎を上げた。
「…ん」
朝と同じ音がする。
シュ シュ シュルっとネクタイが擦れて結ばれて行く。
ポンと胸元のネクタイを押されて
「行くべ〜」
と瑞季は先に部屋を出ていった。
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